精霊に愛された少女の恋慕
巨大な打ち上げ花火のような音を立てながら爆発した二人。爆煙が朦々と立ち込め、裏路地の視界が一気に塞がれる。大きな爆発音に表通りからざわざわと声が上がっている。
「大丈夫かー!」
爆発の直前にディークの姿を見ていた衛兵が、煙を掻き分けながら呼びかける。
「おい、大丈夫か!? こっちに倒れている人がいる!」
衛兵は倒れるアイラの姿を見つけ、後方の仲間に呼びかけた。アイラを引き渡すと、衛兵たちは爆発源へと向かう。徐々に砂埃も晴れ、爆発地点の面影がはっきりと見えてくる。
「人が倒れてる!」
黒い影を見つけた衛兵が慌てて駆け寄る。そこには、全身に傷を負ったディークの姿があった。両腕が折れ胸の部分が大きく焼け爛れている。
「酷い傷だ。早く手当てしなければ。救護班を呼んでこい! 担架も持ってこいよ!」
「はい!」
衛兵の一人が駆けていく。裏路地の煙が風によって吹き飛ばされ、表通りから野次馬が顔を出している。
「それにして、あの爆発でこれほど傷が浅いとは。何者だ、この青年は」
ディークの顔をマジマジ覗き込む衛兵は、どこか見覚えのある面影に疑問を抱く。
「ディークレオス!」
「あ、君! まだ動いちゃダメだよ!」
「離して!」
衛兵の一人に抱えられていたアイラは、目を覚ますと瞬時に状況を理解し、ディークの元へ走る。衛兵の手を抜けたアイラは、ディークの痛ましい姿を見て傍に膝をついた。
「死なないで! 私が助けるから。精霊さん、力を貸して」
『いいよー!』
一瞬涙が出そうになったアイラはそれをグッと堪え、すぐさまディークの治療に取り掛かる。アイラを守っていた精霊たちが複数集まりアイラに力を貸す。アイラから神秘的な魔力が溢れ、裏路地の空気すら浄化していく。その魔力はディーク一人に身に集められ、凄まじい速度で傷を癒していく。
骨も火傷の跡も、何事もなかったかのように治されていく。ありえない光景を目撃した衛兵たちは驚愕に目を見開き、自身の正気を疑った。
「ディークレオス、目を覚まして……」
アイラの治療によってディークの傷は完治していた。五分とかからず瀕死の傷を治したアイラは、ディークレオスの頭をその胸に抱きとめ、必死に祈りを捧げる。
「ディークレオス、死なないで!」
「う、うるさいぞ。苦しいから離せ……」
「ディークレオス!」
頭にガンガンと響く声を聞いたディークは、煩わしそうな表情を浮かべて愚痴を溢した。だが、そんなディークの発言など聞いていないとばかりにアイラは抱きしめる腕に力を込めた。
「死んじゃったかと……」
「俺は死なん。なぜお前なんかを助けるのに死ななければならない。俺がこんなところで死ぬわけがないだろう」
「でも、ディークレオスすごい傷だったから……」
「それと、いつからお前は俺を呼び捨てにしていいことになったんだ? どさくさに紛れて許すと思うなよ」
「今そういうこと言います? 普通」
目を覚ましたディークは憎まれ口を叩きながら体を起こす。
自分の腕から逃げられたアイラは残念そうな顔をすると、呆れたように言葉を付け足した。
「全く。そもそもお前が勝手な行動をしなければこんなことにならなかったんだ。人を連れ出しておいて勝手にどこかに行ったかと思えば、事件に巻き込まれている。お前は少し周りに気を配れ」
「……はい」
しゅんと項垂れるアイラは今回ばかりは本当に反省した様子を見せ、行儀の良い犬のように返事をした。
「でも、私が治してあげたんですよ!」
「怪我した原因もお前だがな」
「う……で、でも! 体を張って守ってくれたってことは、ディークレオス様は私のことが好きなんですよね!?」
「何を言っているんだお前は?」
「え、違うんですか?」
「俺はお前のことなんか好きじゃない。俺が愛しているのはセレ一人だけだ」
「ええ!? なんで!?」
驚くアイラは信じられないと言いたげな顔でディークを見つめている。
「す、すまない。お話中のところ。一緒に駐在所の方に来てもらえるか?」
「良いだろう。おい、行くぞ」
「え、あ。ちょっと待ってくださいー!」
怪我など初めからなかったかのように軽い動きをするディークは、アイラを置いて衛兵
について行こうとする。慌てたアイラは駆け足でディークの後を追いかける。
(もしかしツンデレなのかな? 今の絶対フラグだと思ったのに)
アイラは疑問の混じる視線でディークの背中を見つめていた。




