2.思うようにいきません! --ラノベの王子--
「ハァー、どこかにいい案が、転がってないかしらね」
私室のソファにだらしなく座りながら、足をバタバタと動かす。
昨夜のお姉様の様子だと、あいつとの婚約を解消させるのは中々難しそうだ。
お姉様は絶対首を縦には振らないわよね------
お姉様って、意外と頑固なところがあるのよね、っと自分を棚に置きながら呟いた。
とりあえず、どうにかしてあいつから婚約を破棄してもらうよう仕向けなくてはならない。
婚約者がいるにも関わらず、他の女に--- 婚約者の妹に惚れるなんて、絶対あり得ない事だし、そもそも誠実という言葉自体消えてしまったのかしら? あいつが宰相様の息子であるのが実に気に食わない。宰相様は良い方なのに----。
将来王配として立つにしても、頭が緩いんじゃないかしら。まるでラノベの王子のようだとふと思った。
はて、ラノベではどんな展開だったかしらね?
前世でラノベと言われていた、本の内容を拙い記憶から思い出す。
図書館で働いていた時、若い子からのリクエストが多かったので、興味がてら自分でも借りて読んだものだ。
人気の婚約破棄シリーズでは、男性が真実の愛に目覚めて愛する者と婚約者を断罪し、婚約破棄を告げるシーンが多かったわね。
しかも婚約破棄された女性は、国外追放をされたり平民落ちするというあり得ない流れ。
頭の足りない王家はこの世界にもいるのかしら、あんなんじゃ国民は路頭に迷うわよとも思う。
まぁ---- だから、婚約破棄された女性から最後はざまぁされるのよ。
結局、真実の愛から不幸せになるのはありきたりなもんなんかじゃなくて、当然の結末なんだろうけど。
------ 真実の愛って凄いわね。考えた人は天才だわ。
昨日のあいつの言葉を思い出し、今の状況に当てはめる。
お姉様が悪役令嬢で、私とあいつが真実の愛で婚約破棄に持ち込み、お姉様は私をざまぁして幸せになる。
-----うん、悪くないかも。
お姉様が幸せになるのなら、ざまぁされても私はなんとか生きれるだろう。
私は前世の記憶がある為に、今の文明の中で耐えられなかった、化粧品や香水、そして下着をこの世界で新たに開発した。
乳兄妹であるハロルドを表に立たせ、商会を立ち上げているのでお金は潤沢にある。
化粧品は、シャンプーや唇を潤すリップを。
香水は、匂いが薄く、甘さを控えた爽やかな香りを。
下着は、レースを施し着け心地よくさせたブラジャーと、ゴムを使ったパンツを。
自分が使う為に開発したこれらは、貴族や裕福な平民からとても求められた。
付加価値をつける為、作る量を制限しているのもあって、いつも予約待ちの状態だ。その事を踏まえると、自分が市井に下ってもお金には困らず、生活出来る自信はある。
ただ、最後の問題はあいつと恋仲にならなくちゃいけない、ということ。
しかも真実の愛------ 辛いわ。
まあ顔自体は、綺麗な作りをしているかもしれないけど、全然タイプじゃない。
どちらかというと------ 将軍様のような男らしさ溢れる見た目の方が、見ていて好ましいし好きだわ。
線が細い男なんて---- しかも、女に蹴られて尻餅つくような男、まっぴらごめんよ。
昨日、脛を蹴られたあいつの顔を思い出して、笑いが止まらなくなる。
あの美しい顔が、カエルのように口を開き、目は飛び出しそうだった。
クツクツと笑っていると、ノックする音が聞こえてきたので、どうにか笑いを収め顔を引き締める。
「エレナ、なんだその顔は?」
ハロルドは、掛けているメガネのブリッジに指を当てて、上に軽く押した。
メガネを直すハロルドの動きを見て、そんな動きをする人が本当にいるんて! と昔言ってしまった事を思い出し、また笑えてくる。
ハロルドだったら、顔を引き締めるなんて無駄な事しなきゃ良かったわ、どうせすぐ崩れちゃうのに勿体なかった。
「エレナ、また良からぬ事を、考えてるんじゃないんだろうな?」
乳兄妹であるハロルドは、幼い頃から一緒に育ってきたのもあって、突飛な私の思考を読んでくれる、有難い存在だ。
ハロルドは侯爵家の二男であるにも関わらず、城で私と遊び、勉強やダンスも一緒に学んでくれた。
「ううん、良からぬ事じゃなくて、良い事を考えていたのよ」
ハロルドに昨日あった事を話し、婚約解消に向けての作戦を説明した。
私は言いたい事を言い終えると、ワゴンに用意されたお茶の準備をしに立ち上がる。
ハロルドは、一度考え混んでから返事をしてくるので、先に伝えたい事を私が言って、その間にお茶を用意するのが、二人にとってはいつものこと。
ハロルドの分のお茶をテーブルに置き、先程いたソファへ再び腰を下ろす。
顎に手を置いたまま動かなくなったハロルドを見て、とりあえず座ればいいのに。っと思った。
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俺は考えていた。
いや、考えていたというより呆れてしまい、考える事を放棄していた。
---- あいつの頭の中は、一体どうなってるんだ。
エレナの話す婚約解消への可愛らしい策略よりも、どうしてそういった思考になるのか、頭の中を覗きたい衝動が体中を駆け巡っている。
エレナは一言で言うと、アンバランスだ。
王や王妃、第一王女といった、エレナの家族は愚妹と言っているがそんなもんじゃない。
今のように可愛い考えを巡らしてる時は、確かに愚かであると俺も思う。
しかし冷静な時のエレナは、俺には考えつかない意見を述べたり、新たな物を生み出したりと驚くほど頭が良く才女。
歴史や語学はすぐに覚えていたし、計算に関して言えば先生から教わる前には理解していたように感じる。
だから商会を立ち上げた時には、俺が表に立ちエレナの開発した商品を売り込む為協力した。
だが---- 今回は協力できそうにない。というかしたくない。
何でわざわざエレナがあいつと恋仲を演じるんだ? 全く理解できない。そもそもあいつの事嫌いじゃないか。
更にいえば市井に住むエレナが想像出来ない。絶対無理だろ、どうやって生活していく気だ? 料理さえ出来ないだろ。
なぜこういった時に限っておそろしく馬鹿なのか。
考えるのにも疲れてきたな---- エレナに直接聞こう。
「エレナ、もう一度考えないか? 何で、真実の愛とやらをあいつと目覚めたふりをして、婚約破棄に持ち込むんだ?」
「あら、説明したでしょ? あいつ私に言い寄ってきたのよ? だから私を使うのが一番簡単なのよ」
「俺には理解出来ない、そもそも考えてみろ。アリステア殿下はざまぁとやらをするか? しなかったら、あいつとそのまま結婚する羽目になるぞ」
エレナの目が見開いてお茶を持ったまま固まった。
まず言いわせてもらいたい、ざまぁとやらはなんなんだ。意味は聞いたが、その言い方の出所を是非に俺は知りたい。
「ちゃんと考えてみろ、ざまぁをするような人か? 違うし、あいつの事好きとは思ってないよな? 後は断罪か? アリステラ殿下を断罪する何かがあるか? 探しても絶対ないだろ。ましてやエレナの父様や母様は、アリステア殿下を追放なんてしないんじゃないか?」
「そっ---- そうね、根本的な部分を考えていなかったわ。あぁ、なんて恥ずかしいのかしら。ラノベの王子のように私は愚かだわ!」
エレナは両手で顔を隠して、ソファの上でのたうち回っている。
よく分からない単語も聞こえたが、ハロルドは満足しながらお茶を口に入れた。
「あぁ! なんて思うようにいないのかしら!」
エレナのいつも言う台詞を無視し、俺はエレナが落ち着くまでお茶を飲みながら待つ事にした。
読んで頂き有難う御座います!
ラノベの王子は、皆様が知っている王子ですね!