17.閑話-ある昼下がり- --覗き--
「あー、気持ちいい日ね!」
ハロルドを連れて、お姉様のパーティー会場を下見しに来たけど、こんなに天気が良いなら、庭で陽を浴びないと勿体ないわ!
ハロルドは溜息を吐きながらも、付き合うっと言ってくれたので、壁のない廊下を二人で歩いていく。
フンフフーン♪ と鼻歌を歌っていると、外の木陰に副隊長の姿が目に入った。
「ハロルド、面白そうだから覗き見しない?」
「ハァ---- しょうがないな」
二人で近くの草叢へと静かに歩き、身を隠しながら副隊長を覗き見れば、副隊長は侍女長に、壁ドンならぬ、木ドンをしている。
衝撃の光景に、声を出しかけたので、慌てて口を両手で塞いだ。
「まだ、怒ってるの? いい加減にしないと、ここでキスしちゃうよー」
「--------」
キ、キ、キス?!!
一体どうゆう事なの?!
「だからねー、未亡人とは熱い夜は過ごしたけど、エレナ殿下の為じゃないか?」
「---- 楽しんだのでしょう? 良かったですね」
「もう、拗ねちゃって。ポーカーがそんなに気に入らない? それに、未亡人の肩を、優しく揉んであげただけじゃないか? すっごく長い間揉んだから、指が疲れちゃったよ」
「夫人の体に触った事には、違いないじゃない」
「もう、俺が愛してるのは君だけなんだから」
「信じられないわ!」
侍女長が、副隊長から離れるように体を捩ると、副隊長は侍女長の背から腕を回して強く抱きしめた。
------- な、な、凄い! ドラマか漫画のようだわ!
エレナは二人の動きに目が離せず、鼻息が荒くなるのもお構いなしに、どんどん体が前屈みになる。
「嘘つき、俺の事愛してるくせに。信じられないなら、信じさせるようにするだけだよ?」
「愛してなんかないわ。それに、いつも不安でしかないのよ」
「不安だなんて、愛してるって言ってるのと変わらないよ? ああ何て可愛いんだ」
「可愛くなんかないわ、目もつり上がってるし、皆から怖がれてるわ」
「俺にとって可愛いんだから、他は関係ないだろ? もう黙れ」
副隊長が言葉を切ると、侍女長の顎に手を添えて、副隊長の顔に強引に近づけると甘いリップ音が響いた。
-------- ええ!! 副隊長の彼女って侍女長なの?!
そういえば---- こないだ呼び出した時、髪が乱れてたわよね。
息は上がってなかったから、流石だと思ってたけど----
今考えたら、顔が赤かったわよね。ああ、何て事かしら!
もしかしたらあの時も?!!
きゃあ、何か興奮しちゃうわ!
転がり回りたい衝動を抑えつつ、チラリと隣にいるハロルドを見れば、見た事がない程凄い顔になってる。
-------- ハロルドのだらしない顔って、初めて見るかも。
私がジーっと見ているのに気づいたのか、ハロルドは私と目が合うと直ぐに表情を元に戻した。
「エレナ、もう見るのやめないか?」
もうちょっと見たいなと思ったが、ハロルドが私の手を握って歩き出したので、私もその場からしぶしぶ離れる。
私達の後ろからは甘いリップ音が何度も聞こえたが、前を歩くハロルドの耳が赤くなっているのに気づいた私は、可愛いっと思い顔を緩めた。
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先ほどの光景を思い出しながら、ハロルドは盛大に息を吐いた。
自室のソファに深く腰かけ、あぁっと頭を抱える。
------- あの時見た、副隊長と抱き合ってた女は、侍女長だったのか! 全然分からなかった!
一年前の夜会後、エレナの私室から馬車乗り場へ向かう途中、副隊長が髪の長い女と抱き合っている所を目撃していた。
-------- エレナが言ってた、副隊長の彼女か?
エレナが何故、副隊長の事を元女たらしに改めたのか聞いたら、本命の彼女が出来たらしいの! て言ってたなと思い、その場を直ぐ離れたのだが-------
侍女長は、普段見ないような、女の顔をしていたし、副隊長も意外と強引だったな。
しかも、未亡人との熱い夜って、ポーカーだったのか!
それに肩を揉んだって---- サービスはそういうサービスだったとは------ 俺は、何て恥ずかしい勘違いをしたんだ!
モンモンとしていると、二人のキスする姿が浮かび上がり、思いっきり顔を横に振る。
---- 駄目だ。
二人がキスする姿に、エレナと自分の姿を重ねてしまい、胸の音が煩いし鼓動も速くて堪らない。
どうしたらいいんだ! 考えても二人のキスする姿が頭から離れないので、ハロルドは風呂場に行き、何度も水を被った。
-------- 絶対、副隊長には何か仕返ししてやる!
ハロルドの行水は、止まらずに夜中まで続く。
侯爵家では、ハロルドはやっぱり壊れたんじゃないかと噂され、家族から疑いの目を当分受ける羽目になった。
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