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13.閑話-バレルシア城内--マイヤー視点②

「うっ」

「うっー」


「あんまり悲しむな、しょうがない」


「しょうがなくないわ! 私は悲しいのです--- あんな叫ぶほど嫌がるなんて、レオンは一体何をしたのかしら? あぁ私はどこかで教育を間違えたのね----」


 母と父のいる部屋を訪ねてみれば、髪を乱しながら泣いてる母と、そんな母を慰めるのに草臥れた父がいた。


 エレナ嬢の叫びはこの部屋にまで響いたようで、はっきりと聞いてしまった母は、聞いた直後は項垂れていたようだが、いつの間にか弟の愚痴へと変わっていったらしい。


 らしいというのも、私が部屋に来た時には既に弟への嘆きが始まっていたからだ。声をかけようか悩んでいると、父が私を見て小さく首を横に振ったので、静かに部屋を退出しそのまま執務室へと足を向けた。


 それにしても----- エレナ嬢は面白いな。


 先程の叫びを思い出すと、体が震え小さく息を何度か吐き出す。


 あれほどの声量と、人間らしい表情を弟以外で初めて見たな---


 久しぶりに昔の自分に戻ったようで、何だか清々しい気分だ。あれがエレナ嬢の素なのかな、弟が好くのも分かる気がする。


 弟は酷い中身をしているが素直だからな、エレナ嬢もきっと素直な人間なのだろう。


 王族として立派な姿勢と博識はどこに行ったのか---- クツクツと笑いが止まらなくなる。


 エレナ嬢がもし弟と婚姻を望んでくれていたら、きっとこの暗くなった城も明るくなっただろうと、もう見ることの難しい未来に思いを馳せた。


 翌日、執務室で書類を捌いていると、侍従がハロルド君からの伝言を伝えにやって来た。ハロルド君から会いたいと言われるとは思わず、少し考えたが面白そうなので返事を紙に書いて侍従へと渡した。



「急なお願いに応じて下さり、有り難う御座います」


 ハロルド君が一人で来ると思いきや、斜め後ろにエレナ嬢を連れてきている。


 ------ 手なんか繋いで可愛いじゃないか。


 二人は本当は付き合ってるのかな? と聞いてしまいたい衝動を何とか抑え、昨日のお詫びを口にした。


 先に、ハロルド君がエレナ嬢の代わりに謝罪を口にしてから、エレナ嬢が謝罪を口にするので、彼氏というより母親のようだなと思い直し、いつもより砕けた顔になるのを止められない。


 とりあえず腰を下ろし、お茶を口にしてから口を開いた。


「それで、ハロルド君は何か話したい事があるのかい?」


 ハロルド君の表情は、本当変わらないな。昨日は少しだけ違うように感じたのが嘘のようだ。


「マイヤー殿下には、私達が何故バレルシア王国に来たのかお話したいと思いまして。お時間を頂けますか?」


 エレナ嬢は何を話すのか分かっていないのか、えっという言葉を出しながら、目を見開いてハロルド君を見ている。何だか面白そうなので、いいよと口にすれば、第一王女であるアリステア殿下の話しをし始めた。


 アリステア殿下は素晴らしい方らしく、美しく凛とした立ち姿を想像してしまう。だが婚約者の話になると、聞けば聞くほど何だか辛くなり、どこにでも馬鹿な貴族はいるんだなと素直に思った。


 なんて勿体無い---- 何故婚約を解消しないんだと言いそうになったが、アリステア殿下の民を想う考えを聞いて納得する。


 私も同じ状況なら、婚約を解消しないだろうと思ってしまったからだ。


 エレナ嬢はアリステア殿下が好きなんだな、何だか弟の話しを聞いているようだ。


 その弟から私の話を聞いて、姉に合う人か調べたくなるなんて益々弟の思考と似ていて笑いそうになるが、どうにか耐えながら話を聞き続けた。


 ハロルド君は一旦話しを切ると、少しだけ顔に緊張が走り膝の上に置いてる片手の拳を強く握り出した。そんな表情もするんだなと感心していると、ハロルド君は意を決したように口を開いた。


「マイヤー殿下がもし会っても良いと、少しでも興味をお持ちになって下さったのなら、難しいとは思いますがアリステア殿下の一ヶ月後の誕生日パーティーに来ては頂けませんか?」


 これはまた、面白い事を言い出したな。


 他国の王女のパーティーに、王太子である私が出席するのはあり得る話だが、お願いされたのは初めてだ。


 だがパーティーに私が行ったとして、王太子である私が女王になる予定の女性に求婚は出来ないし、国は一体どうなる?


 テリージア王国としても、今まで教育を施してきた王女を手放すのは難しいだろう。


 ハロルド君やエレナ嬢は分かっていないのだろうか---


 幼い二人の考えに小さく息を吐いた。


「もし---- 私がアリステア殿下を気に入ったら、テリージア王国はどうする気なんだ?」


 二人の甘さを叱るように口にすれば、合わせていたハロルド君の目が、先程よりも真っ直ぐ私へぶつけてきた。


「その時は、エレナが女王になり私が王配となって国に身を捧げましょう。エレナにとって、姉上であるアリステア殿下の幸せが唯一の私欲です。私はそれを叶えてあげたい。マイヤー殿下から見れば、幼い馬鹿な考えかもしれませんが、私は馬鹿にされても構わない」


 私は、か--- 幼稚だと分かりながらも、成功法でぶつけてきたのだと気づく。


 案外計算されてるのかも知れない、ハロルド君は頭の回転が良さそうだな、弟もハロルド君から学んでくれればいいのだが。


 しかし、唯一の私欲がアリステア殿下の幸せだなんて。


 しかもその唯一の私欲を、ハロルド君は上手く使っている。


 ハロルド君はエレナ嬢を手に入れる為にも、私にアリステア殿下を合わせたいのだろう。


 エレナ嬢が今のままであれば、同盟の為に他国へ嫁ぎに行く可能性が高く国内での結婚は難しい。しかし女王であればアリステア殿下からも考えられるように、自国の貴族と間違いなく婚姻するだろうと推測出来る。


 侯爵家の次男であれば周りも納得するだろうし、此処まで一緒に来るぐらいだから、普段からエレナ嬢の側で他の男を近寄らせないようにしているに違いない。


 ハロルド君に、考えを読まれないよう目を瞑る。


 私欲まみれじゃないか---- エレナ嬢はきっとハロルド君の腹の中に気づいてないんだな。これは中々重たい、エレナ嬢はこんな男に狙われて大変だな。


 昨日のエレナ嬢の叫びを思い出し、抑えきれずに体が震えだす。


 エレナ嬢は、ハロルド君とこの後どんな話をするのだろうか。


 叫び声が部屋まで聞こえたら堪らないな。


 ハロルド君も黒すぎるな。

 ある意味お似合いの二人なのかもしれないが-----


 ハロルド君とエレナ嬢のやり取りを想像すると、更に体が震え、耐えきれなくなり口から笑い声が飛び出た。


 ------- あぁ、面白い。

 目の端に浮かんだ涙を指で拭き取る。


 笑い過ぎたな------ 深呼吸をして、ハロルド君を生温かい目で見た。


「うん、分かった。いいよ。アリステア殿下の誕生日パーティーに出席しよう」


 表情が乏しいのが嘘のようだ、何て顔だ---


 ハロルド君は喜びからか、年相応の笑顔を私に見せた。


 ハロルド君の単純さに再び体が震えだし、何だか愉快な気持ちが一気に広がり、口から飛び出す笑い声は先程よりも大きくなった。


 これから面白くなりそうだ。


 来月のアリステア殿下のパーティーが楽しみになり、色々と考えを巡らせていると、ハロルド君への小さな仕返しを思いついて、ニヤつきながら夜を迎えた。


 だがそんな愉快な気持ちも、家族で夕食を取っている時に消え去ることとなる。


「俺さ、黒子との結婚を考えたんだ。紙を作るなら黒子がいた方がいいだろ? だから父さん、兄さん、テリージア王国に婚姻の打診をしてくれ!」


「やめなさい!」


 そう言って泣き出した母を放置しながら、もう打診したとは言えない父と私は、弟がしぶしぶ諦めるまで説得する羽目になった。


 弟は私達の姿を見て何を思ったのか、黒子は何したんだ?! と言い放ったので、お前だ! と言えない母は、代わりに嗚咽を部屋に響かせた。


 明朝、エレナ嬢がハロルド君と共に帰国すると聞き、見送る為に外へ出てみれば、ハロルド君に手を繋がれて放心したまま立ち尽くすエリナ嬢がいたので、頑張れと心の内でエールを送った。


読んで頂き有難う御座います!





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