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第14話 犬神の正体

「――どうやら、すべて終わったみたいだね」


 成明は暗闇の中からのっそりと姿を見せた犬神を見つめた。犬神の口元は赤いペンキで塗り潰されたかのように、生々しい鮮血で染まっている。


「――はじめからそのつもりだったの?」


 少女は犬神の頭を優しくなでながら、成明に解答を求めた。


「さて、なんのことを言っているのか、ぼくにはさっぱり分からないけれど」


 成明は白々しく首を左右に振って見せた。


「そういうことならば、これ以上は聞かないでおくわ。――それで、この犬神はどうするつもりなの? さっきは始末するみたいなことを言ってたけど……」


「犬神のことを知らなかった君が、こうして犬神を操ることができるというのは、もともと君にその素質があったからだよ。ぼくは犬神が暴走をするのを恐れていたけれど――」


 成明はそこでいったん言葉を切ると、少女に頭をなでられ気持ち良さそうに目を細めている犬神を見つめた。


「どうやら、その心配は杞憂だったみたいだね」


 そう結論付けた。


「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったね」


「――美樹。犬養美樹(いぬかいみき)よ」


 少女――犬養美樹は答えた。


「犬養――? ひょっとして生まれは高知県かな?」


「そうよ。高知県の物部村(もののべむら)の生まれだけど――」


「それで分かったよ。今回の一件についても、これですべて辻褄があう。物部村は犬神の故郷で、犬神使いの家が今も残っているところなんだ」


 成明は納得気にうなずいた。


「――わたしも詳しくは分からないけれど……。わたし、昔から犬に好かれていて、それを見たお祖父ちゃんが、わたしを犬から遠ざけさせるために、川崎に引っ越してきたの。それじゃ、ひょっとして、わたし――」


「ああ、きっと犬神使いの血を引いているはずだよ。ただ、今の時代、そういう迷信めいたものは周りから白い目で見られるから、それでお祖父さんはそのことを君には教えずに、逆に犬から遠ざけさせようとしたんだろうね」


「そうだったんだ。わたしの体に犬神使いの血が流れているんだ……」


 美樹はなにかを確認するかのように、自分の両手をまじまじと見つめた。


「もっとも、君は犬神使いとしての能力以前に、一番大切なものを持っているよ」


「大切なもの?」


「その犬神との絆だよ。その絆さえ忘れなければ、君はこの先もっと立派な犬神使いになれるはずだよ」


 成明はこれですべてが終わったという風な顔でにこっと微笑んだ。


「絆、か――」


 美樹は犬神を見ながらつぶやくと、


「いろいろと本当にありがとうございました」


 と成明に頭を下げて礼を言った。感情のなかった顔に、今は年相応の可愛らしい笑顔が浮かんでいる。


 美樹の言った言葉の意味を理解したのか、犬神が小さくわんと一回吠えた。うれしそうに尻尾を大きく左右に振ってみせる。


「それじゃ、わたし、もう帰らないといけないから」


 美樹は犬神を連れて公園を出て行った。


「──さあ、ぼくの方も、これで調査終了ってことでいいかな」 


 成明はやれやれという表情を浮かべると、腕時計で時間を確認した。


 午後十一時二十分。


「怖い女刑事さんへの調査報告は明日にしようか。怖いお姉さんと話すよりも、優しいお姉さんと話した方が楽しいからね」


 成明は足早に公園を後にした。


 川崎の風俗街で声をかけてきたあの女性の店に、意気揚々と向かったのだった――。

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