8/11
『幻影』
それはもう一つの夢だったかも知れない。
永遠の若さを得た不死者は世界を彷徨い続ける。
そして、十七年ごとに故郷に戻り、少女が孵化するを待つ。
──すべての裸体の思想というものを彼が恐れていた。
美しいものは必ず人間を殺す。
それは昔、彼女の教えてくれた詩だった。
あるいは、彼の願いだったかもしれない。
ある年、不死者は待ちきれなくなって、土を掘り返してしまう。
そこからは蝉の幼虫以外、何も出てこなかった。
そして、彼は誤って、その幼虫を殺してしまう。
それから彼女が彼の前に現れることはなくなった。
卵を失ったためなのか、幼虫を殺したためなのか、理由はわからなかったが、そこで彼の夢は終わった。
次回『人語』