『記憶』
幾つものの出会いと別れ、喜びと哀愁、多くの挫折とそれでも希望を求める日々は、いつしか少年を一人の逞しい青年と成長させた。
彼はある約束を果たすため、亡き両親の育った故郷に帰ってきた。
幼少の頃、過ごした懐かしい家。
そこで青年は奥の和室に通され、許嫁である少女と出会った。
彼よりも一回り若く、まだ十代の娘だ。
透き通るように白い肌、黒く長い髪、そして、夜の闇のような深みのある黒瞳──彼女には大切な人の面影があった。
その夜、彼女は婚約者に前世の古い記憶について語った。
「私はね、十七年毎に生まれ変わるの。私は私を産み落とす。
でも、あなたは一つの禁忌を冒した──孵化する前の私の姿を見たわね」
少女は哀しげな表情をした。
「ここで一つの謎かけ、私はあなたにとっていかなる存在なのか?
その問いに答えられないと、あなたと契りを結べないわ。
永遠にその逢瀬は失われてしまう」
青年は悩んだ。
「俺は君のことをどう扱うべきなのだろうか? 姉としてか、伴侶としてか、それとも、娘としてなのか?」
やがて、彼は一つの答えを出し、それを言った。
彼女の艶やかな口唇が審問官のように開く。
「あなたが望むものならどれでも。私にとってあなたは弟であり、良人であり、父でもあるわ──悠也さん」
次回『蠢動』