『畸形』
鬱蒼とした森の中のことである。
奇妙にねじ曲がった樹木とその四肢のような枝に阻まれ、日の光も抱かない陰気な場所であったが、彼らにとってそこは誰にも邪魔されない影と静寂の王国であった。
黒く湿った土の臭いを鼻孔で感じながら、二人はそこで無邪気に遊んでいた。
「一番、最初の人間は土から生まれたの。そして、女の人はね、そのあばらから生まれたの。それがアダムとイブ。だから、男の人は女の人よりもあばらが一本、少ないのよ」
少女は、古い骨のような枯れ木で遊んでいる少年に教える。
「本当だ! ぼくのは数が一本少ない」
少年は自分の胸のあばらと少女のあばらに触れてみて叫んだ。
本当はよくわからなかった。
「嘘だよ。私は畸形で特別なの」
「病気?」
「畸形は病気や障害でないわ」
「どうして二十五本もあるの?」
「土くれの息子がそうだったせいかも」
少女は嘘をついた。
「りんごはどんな味がしたの?」
彼女はその問いに答えず、少年に接吻を授け、どこか哀しげに言葉をつぶやいた。それを耳にして、畸形なのは少女の方ではなく、自分達の方かも知れないと少年は思いはじめる。
「あなた達は古い約束ごとを違背した証──汝、二十四本のあばらを通り、おぞましき股間からいでしもの」
次回『陰影』




