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『蝉鳴』
鼓膜にざらつく鳴き声がまとわりついて離れなかった。
木々からこぼれる夏の強すぎる光は生命力を象徴していたけれども、時折、乾いた死を予感させたせいかもしれない。
蝉しぐれで騒がしい森の中で、私はこの世のものとは思えない美しい少女を看取った。彼女は他人事のような口調で言葉を残す。
──私たちは夏の間しか生きれない生き物なの。
足元には蝉の死骸が落ちていた。
目の前のはかない生き物が、それゆえ美しく完璧な存在であることに私は今さら気づいた。
──土に腐れ落ちて死ぬあなた達がうらやましいわ。
そう言って、それは碧い水晶となり、世にも美しい音をたてて、乾いた地面の上に砕け散った。まるでその碧さを世界に広げるように。
幻想詩としてはあまりに沈香ではないが、それが序章である。
次回『生殖』