8月20日、オレの爪
この間はこの爪が大活躍だったな!そしてオレは、今日も爪磨ぎに余念がない。
『ん?部屋の空気が微かに動いた!』
オレの髭は確かにそう告げている。
今現在、この部屋にいるのはオレだけのはず。じゃあ今のは・・?
パタパタ、パタパタパタパタ
オレの目の前を、黒い物体が走り去っていく。
オレはすかさず肉球パンチを繰り出した。ダメだ、全然かすらない。
どこへ逃げ込んだ・・?
オレは、己の気配をすべて消し、やつが現れるのを待った。
1、2、3、4、5・・10分。
その時、オレのパラボラアンテナがやつの在処を教えた!
この食器棚の後だ。
オレは下の隙間から手を突っ込んでみた。しかし、何の反応もない!
ん・・確かにこの奥で音がしたんだけどなあ?!
オレは姿勢を低くして、隙間から覗きこんでみた。
その瞬間、オレの鼻先をかすめるように、あの黒い物体が勢いよく飛び出してきた!ふいをつかれたオレは、驚きのあまり、おもいっきり宙に飛び上がっていた!
急に出てくるな!ビックリするじゃんか!
ふうっ、良かった誰にも見られなくて。こんなビビったとこを翔太にでも見られていたら、何を言われるかわかったもんじゃない。
それにしてもすばしっこいやつだ!
くそっ、今度見つけたら絶対逃がさないからな・・。
オレは再び姿勢を低くしその時を待った。今度はふいをつかれてもビビったりなんかしない!一撃で仕留めてやる!
そして
やつが飛び出してくる気配をオレのパラボラアンテナは見逃さなかった。さっきと同じルートでやつは現れる!オレは、そこに全神経を集中した。
来る!
やつの顔が見えた瞬間、オレはその黒い物体に向かっておもいっきりダイブ!
くそっ!わずかに標的を外したオレは、壁際をひた走るやつを追い回した!
テーブルの上から、椅子の上から、オレはやつを狙った。
コップを吹っ飛ばし、雑誌を吹っ飛ばし、テレビとエアコンのリモコンを吹っ飛ばし、ティッシュペーパーはあちこちに散乱・・。
そして遂にやつと目があった!
ビビって動けないやつを、オレは必殺ネコパンチでKO!
こうして、柿の種に足が生えたようなぶさいくなやつは、オレの爪の餌食となったのだった!
そして
「ただいまー、レオ」
翔太達が帰ってきた。
オレは、捕らえた獲物を早く見せたくてうずうずしていた。
『翔太、こっちこっち!』
しかし、そのあとの翔太の言葉は、オレを一瞬にしてフリーズさせるものだった!
「うわー!なんだこの部屋は!レオ、お前かこんなに散らかしたのは・・怒られるぞ~」
当然ながら、その日のオレの夕飯はなしだった・・。
落ち込むオレの傍らには、オレの一撃でのびた柿の種もどきが転がっている。
「レオ、やりすぎだよ!」
『ごめん、夢中になりすぎた』
「バカだなあ・・」
『・・・』
「お腹空いただろう!これ食べな」
そう言って、翔太が持ってきてくれたのは、オレの大好物の煮干しだった。
『食べていいのか?』
「うん、だってレオ、ゴキブリ捕まえてくれたんだろう。お手柄だよ!だからさ・・」
オレは、嬉し涙でしょっぱさを増した煮干しを、ゆっくりと口に運んだ。
『ゴロニャー!』