冷たい火傷
『翔太、翔太いるかあ!?』
あれ?どこ行ったんだ。
オレは耳と鼻で、翔太の気配を探した。
・・いた!トイレだ。
ジャー
するとトイレの扉が開いた。
んーん、翔太のウンコの臭いだ。いつだったか、僕のウンコは臭くない!なんて言ってたけど、やっぱり十分臭いじゃないか。
『翔太、おい翔太!』
「☆☆☆☆」
翔太はオレの頭を撫でてくれたが、ネコ語で話しかけてはこなかった。人間の言葉でオレの名前を呼んでた気がするが・・。しかし、俺には人間の言葉はほとんど理解できない。せいぜいわかるのは、「レオ」と名前を呼ばれるのと、「ご飯だよ」と、「こらー!」って怒鳴られる言葉くらいだ。
あーあ、つまんないなあ。
オレは玄関に向かった。オレの一番落ち着ける場所に。
あれ、無いや!
オレの好きな靴がない。そう、ご主人がいつも履いている靴が。翔太をおいて出掛けちゃったのかな?
そしてオレは再び翔太のところへ向かった。リビングに入ると、オレの鼻は一瞬であることを感じ取った。ガスライターの臭いだ!
いつもご主人が使うガスライター。まてよ、ご主人は今ここにはいないはず。オレは嫌な予感のなか翔太の名前を呼んだ。
『翔太、翔太、何してるんだ?』
リビングのイスに翔太の足があった。テーブルで顔と体は見えない。
すると、もう一度ガスライターの臭いが。そして次の瞬間、それは炎の臭いと変わった!
「うわー!」
翔太の叫び声だ。
オレは慌ててテーブルに飛び乗った。
『翔太!』
そこには燃え盛るテイッシュペーパーが!しかも、炎は次々とティッシュペーパーに燃え移ろうとしている。翔太が危ない!
オレはとっさに、炎めがけ決死のダイブを。
そして肉球で炎を叩くが、全然炎の勢いは収まらない。
叩いても叩いても、ただ、オレの毛が焦げる臭いがするだけ。
くそっ、消えないか・・
すると、ジャー
大量の水が炎を消し、オレの顔と両手をびしょびしょに濡らした!
翔太がコップの水を、炎めがけて掛けたのだった。
ふうー、久々に焦ったぜ!
「レオ、☆☆☆☆」
翔太はオレを見て叫んだ。多分大丈夫かって心配してくれているのだろう。
『オレなら大丈夫だ。翔太はケガしなかったか?』
しかし、返事はない。
翔太はタオルでこぼれた水を丁寧に拭いている。
落ち着きを取り戻したオレは、両手がヒリヒリするのを感じた。舌で軽く舐めてみるとズキンと痛みを感じる。どうやら火傷したみたいだ。
「☆☆☆☆」
翔太は人間の言葉で何かを言いながら、お皿をオレのそばに持ってきた。見るとそこには氷が2つ入っている。これで手を冷せって言うのか・・。
オレは氷は大の苦手だが、この手の痛みには代えられない。そして恐る恐る手を氷の上にのせた。
オレは、テーブルと床を拭く翔太の姿を眺めていた。そして悟ったんだ。翔太の口からネコ語が完全に消えてしまったことを・・。
氷の上の手が冷たい!
翔太、翔太・・オレは心の中で叫んでいた。
『ゴロニャー!』