プロローグ
「艦長!一時の方向に正体不明の艦を発見。此方に近づいて来ます!」
管制官の報告を受けた艦長、エスト・ラインゼルは慌てふためいていた。宇宙に上がって半年、正体不明の艦など一度も遭遇したことがないからだ。
「正体不明艦接触まで三十秒です!」
「ぜ、全速力で離脱、逃げるわよ!」
それが、平常を装って言えたエストの唯一の言葉であった。
「一体何なのよあの艦は!」
エストは嘆いていた。
モニターに映し出された正体不明艦は全体がまるで鴉のように黒く染まっていた。
それ以上にエストは恐怖を感じた。艦首に取り付けられた女神像が妖しく、不気味に微笑んでいるように見えた。そして、何よりも――
「どうして、どうしてあの大きさで私の艦のスピードを上回れるの……」
エストの艦と正体不明艦では十倍ほどの大きさの違いがあった。
(何処よ、何処の国ならあんな艦造れんのよ!)
エストが再び嘆いていた時だった。
正体不明艦の主砲と副砲が光を放った。
「レーザー攻撃、来ます!」
「回避運動をとって!」
宇宙の闇を抉るような光りの照射。一際煌めく美しい光りは真っ直ぐにエストの艦へと伸びて行く。
正体不明艦が放ったレーザーは、エストの早い指示によって、艦に直撃することは無かった。
去った危機にエストは安堵した。が、その安堵が命取りとなった。
「第二波、ミサイル弾、来ます!着弾まで五秒!」
「えっ?」
エストはここで、さっきのレーザーがカモフラージュだったことに気が付いた。
(そんな!さっきのが囮だったなんて!)
ミサイルがエストの艦の右舷に着弾した。
「きゃっ!」
咄嗟のことで衝撃に耐える準備の出来ていないクルーから悲鳴が上がる。
「右舷後方に直撃、対空武装が全て機能を停止しました!」
「反撃は不可能ね。離脱しかないわ」
「艦長、それが……」
「どうしたの?ミーナ?」
管制官のミーナ・オラリスは青ざめていた。
「火災により機関が停止しました」
「……」
それは、敵艦の砲撃の前になす術の無くなったことを意味する。
「艦長、ミサイルが来ます!」
何の障害も無く、ミサイルはエストの艦の左舷に吸い込まれた。
「ミサイル命中、左舷大破!」
「艦長!指示を!」
クルーの視線が一斉にエストへと向く。エストは何も、何も答えられなかった。
その時だった。エストの艦が大きく揺れた。そして、いち早く異変に気付い他のはミーナだった。
「艦長!艦の進路が少しずつずれていってます!」
「えっ?」
エストはミーナのモニターを覗きこんだ。艦の進路は少しずつ未知の座標に向けられているのであった。
「まさか……重力?」
いや、そんなことはあり得ないとエストは思った。開拓技術が進み、艦速も光速化されたため、地球外に人がいることは珍しくない。しかし、重力のある星を発見すれば必ず発見を発表しなければならないのだ。
しかし、確実に高度は下がっている。
落ちていく中でエストは敵艦を一瞥する。墜ちていく自分たちを嘲笑っているかのように、その巨体は佇んでいる。
撃沈寸前の艦はゆっくりと速度を上げ、そのまま重力に従って降下して行く。
――まるで逆らえぬ運命へと引き摺り込まれるように。




