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マカロンをお見舞いに持って。

午後になって、姉の麻衣がやってきた。芽衣とタイプは違うが、どこか似ている。なかなかの美人だ。勝がお茶を淹れる様子を見て言った。

「勝くんが優しいのは知ってるけど、尻に敷いてない?」

「ない!」

大人になった今でこそ丸くなったが、芽衣はもともとかなりきつい性格なのだ。麻衣は、そんな性格も当然知っているし、勝とのことも、高校生の頃と、その後のことを知っているので、なおさら心配している。

「勝くんてさあ…。」

「はい。お義姉さん。」

「どうして懲りずに芽衣にしたわけ?」

「ちょ、お姉ちゃん!何てことを!」

…聞いてみたいけど、聞いてみたくない!

「芽衣といると、退屈しません。それに…」

勝が笑顔で返す。

「ドMなの?」

「お姉ちゃん!」

「それに、可愛いし。」

勝が顔を赤くして言うのを見て、芽衣も赤くなってしまった。途端に麻衣はニタニタしだした。

「ごちそーさま!お似合いね。…今日ほど、芽衣のことで安心した日はないわ。気が強くて、口の悪い妹だけど、よろしくね。」

麻衣の目の端がわずかに光る。麻衣もまた、口が悪いのだが、芽衣のことをー特に離婚してからはー心配していたのだ。

「…さてと。子供達が帰ってくる時間だから、またね。」

麻衣が立ち上がる。芽以は病室のドアまでの見送りだ。

「芽衣、勝くんと仲良くね。」

一瞬のうちに、勝に聞こえないように一言だけ残して帰っていった。

「このために、わざわざ並んでくれたんだ…。」

麻衣の手土産は、“ダムール”という洋菓子店の数量限定のマカロンで、並んでも買えないことだってある。しかも芽衣の好きなフランボワーズが多めに入っている。

「お義姉さん、優しいな。」

「うん…。」

子供の頃から、どんなにケンカしても、いつでも味方してくれたことを思い出す。前夫とのことがあった時も、誰よりも悲しんで怒ってくれた。そんなことを思い出したら、涙が滲んできた。

「お姉ちゃん…。」

長居するわけでもなく、言葉少なに帰っていった。マカロンが優しさの塊のように思えてくる。

「せっかくだから、食べれば?」

勝が紅茶の入ったマグカップを差し出す。茶×ピンクのそれは、先日の戦利品。テーブルの上で、マカロンと並べると、なんとも可愛らしい。

…言葉少なに思いを伝えてくれるお姉ちゃん。そっとお茶を淹れてくれる勝。私って恵まれてるなぁ…。

滲んでいた涙が、どんどん溢れてくる。マカロンとマグカップを前に涙がポロポロ落ちる。

「どうしたの?調子悪い?」

心配して覗き込む勝に抱きつくと、何も言わずに勝が包み込む。

「…しばらく、こうしてて、いい?」

「いいよ。」

広くて暖かい胸に安心したのか、芽衣はそのまま眠りに落ちた。勝は、そんな芽衣をそっと寝かせると、小さくキスをした。

「さあ。片付けるか。」

静かに立ち上がると、マカロンを箱に戻し、飲まなかった紅茶を片付けた。


ーコンコン。ノックの音に振り返ると静かにドアが開いた。高野と、その同級生の女子、志帆だった。

「ごめん。今、眠ったところなんだ。」

そっと部屋を出て、3人で自販機コーナーに移動する。

「経過はどうなんだ?」

「まだ油断できないけど、落ち着いてきてる。」

「そうか。」

「良かった。」

「志帆、勝のヤツ、病院から連絡受けた時、泣いてたんだぜ。」

高野がニヤニヤしながら言うと、志帆がクスクス笑う。

「勘弁してくれよ。そんなことバラすなよー。」

勝が苦笑いする。

「勝って、ずっと芽衣先輩にベタ惚れだったよね。」

「やめろ。言うな!」

勝が赤くなる。

「まさか結婚するなんてねー。」

「一希先輩にも、同じこと言われた。」

「そうなんだー。」

志帆が言うと、3人で笑った。

「入院はどれくらいの予定?」

「長ければ、あと3か月くらい。」

「長!」

今のところ、退院のメドは立っていないのだ。

「安静状態なら、家よりも病院ここの方が安心だから。」

「そうだよね。」

「長くなりそうなら、また時々、来るね。あと、これを…。」

「ああ、ありがとう。」

志帆が差し出したのは、ダロワイヨの包みだった。

「先輩がマカロン好きって聞いたから。またマカロン持ってくるって伝えておいて。」

「ありがとう。伝えておくよ。」

エントランスで、高野と志帆を見送って、病室に戻ると、芽衣はまだ眠っていた。


『買い物に行ってきます。先ほど、高野と志帆が来てくれました。マカロンを貰ったよ。』


手紙を残して、買い物に出ようとしていたら、看護師に呼び止められた。

「村木さん、主治医がお話ししたいとのことです。近いうちにお時間を作っていただけますか?」

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