勝敗。
依子がはしゃいで帰った後は、台風が去った後のようだった。芽以の動悸が始まったので、横になっているうちに、点滴の時間になったので、依子は帰って行ったのだ。
「また来るねって言ったよな…。」
今の芽以の体調では、パワフルな依子は負担になりそうだと、心配になる勝だった。
「さてと。戦利品を見せてもらおうかしら。」
芽以が点滴をしたまま起き上がっていた。
「わ。ちょっと。横になって。」
「少しくらい大丈夫。…ッ…。」
「大丈夫じゃないだろう。横になって。ちゃんと見せるから。」
順番に袋から出して見せていく。戦利品に一通り目を通して、嬉しそうな芽以の様子に、勝は勝利の予感がしていた。依子が選んだ肌着も、決して悪くない。困ったことに、不合格の理由がないのだ。しかし、どこかに難癖をつけないと、勝は仕事に戻らないだろう。
「困ったな。」
勝がドキっとする。先ほどの芽以のニヤリを思い出した。
「勝を仕事に戻らせるためにしたことなのに。買ってきたモノは全部、気に入ったわ。これは、勝の勝ちね。」
「本当?!」
しかし、はしゃぎそうな勝に芽以は言った。
「でもね。高校生の頃からの夢だった事務所を私のために犠牲にしているのは、どうかと思う。キチンと昼間は仕事に行って欲しいの。夜中に仕事に行って、ほとんど寝てないんじゃない?」
…気づいてたんだ。それに、俺の夢、ずっと覚えていてくれたんだ。
「バレてたのか。芽以にはかなわないな。…俺の負けだな。」
勝が苦笑いすると芽以がクスクス笑った。
「今回は、引き分けね。ただし、明日からは、普通に仕事に行ってくださいね。“パパ”!」
「…はい。」
赤くなって返事をした勝を見て、またクスクス笑う芽以。
「笑い過ぎだぞ。」
「“所長さん”のそんな表情を見たら、スタッフの皆さんが、どんな表情をするかと…。」
ベッドに横になったまま、まだ笑い続ける芽以に、赤くなったままの勝が強引に顎を引き寄せ唇を重ねる。
「もう、何すんのよ〜。」
「おしおき!俺のこと、からかい過ぎ!」
今度は芽以が赤くなっている。
ドアの隙間からその様子を見て、そっと涙を拭う人物がいた。芽以の母親の裕子だった。依子から連絡を受けて、駆けつけたのだが、幸せそうな二人を見て、気づかれないうちに出直すことにした。
「明日にしようかな。」
静かに静かに廊下を歩いていく裕子だった。