いざ、勝負!
「…ねえ、仕事いいの?」
怪訝そうに芽衣が言う。
「大丈夫!仕事のことは気にしなくていい。」
勝は、そう言って、仕事を部下であるスタッフにかなり強引に割り振って、芽衣の病室に通っている。
心配になるのも無理はない。芽以が入院して10日が経つが、勝は勝手に、キッチン付きの特別室に移動させてしまった上に、毎日ここで自炊して、ほとんどの時間を病室で過ごしているのだから。さらに昨日に至っては絵本を買って来て、読み聞かせをしようとしたのだ。マタニティヨガのインストラクターを招くのも、この勢いだと時間の問題かもしれない。
「私は大丈夫だから!勝!聞い…ッ…!」
「ホラ、俺の仕事のことは大丈夫だから!横になって。」
かつての勢いで仕事に行かせるよう言おうにも、度々起こる動悸が、勝には病室に居座る良い口実になってしまっている。それに今の芽衣は絶対安静だ。トイレと入浴以外、歩かないように言われている。しかもなるべく体を起こさないようにとまで言われている。おかげで勝はやりたい放題だ。
入院した10日前、病院で目覚めた時に「ごめん、俺のせいで。」と涙ながらに勝が言っていたが、さすがにこれは、やり過ぎというものだろう。高野に叱られたとはいえ、高野だって呆れるに違いない。病院でもすっかり有名である。
「退院してからの方が大変だと思うし、いつまでもこんなことやっている訳には…。まさか安定期に入るまでこんなこと続けるつもり?」
安定期まではまだ3か月近くある。芽衣だって、勝の事務所が心配だ。
「俺がそばにいたいって言ってるの!できることは何でもやりたいんだよ!」
…いいこと思いついた。
「それだったら、マタニティ用のパジャマと肌着を買ってきて。マタニティウエアもね。私の好みじゃないモノが一つでも混ざってたら失格よ。その場合、すぐに事務所に戻るのよ。“所長さん”。」
ニヤリと笑みを浮かべる芽衣。
「わかった。そのかわり、合格したら、このまま俺のペースでやる!」
「できるものならやってみなさい。私は細かいわよ。」
フッと笑う芽衣に真剣な眼差しの勝。
「よし!買い物行ってくる!」
勝は“勝負”に出ていった。