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フワフワふらふら。

そっと鍵を開けるが、ドアを開けるのをためらう。

…ドアを開けるのが怖い。どんな表情カオして入って行けばいいのか…。


ためらっているドアの向こうでは、長い長い夜を寝ずに過ごした勝が、鍵の音に反応していた。

思わず立ち上がる。が、勝もどんな表情カオで出迎えれば良いのかわからず戸惑う。


ーガチャリ…。

ひどく長い数秒ののち、ドアが開いた。

玄関ホールに駆けていくと、下を向いたまま、そっと入って来て、そのまま立ち尽くしている芽衣がいた。

「お帰り。」

声をかけても、何も言わず、まだ靴を脱ごうともせずに同じ姿勢のまま。

「よかった。帰ってきてくれた。」

勝が芽衣を抱きしめると、芽衣も勝を抱きしめた。

「ごめん。何でも話してくれてると思っていたから。」

「バカ。びっくりさせて喜ばせたかっただけだったのに。」

「ごめん…。」

勝は、しゃくりあげる芽以の唇を優しく塞いだ。。


「で?そうやって芽衣先輩を泣かせたんだ。お前、アホか。その程度のタイミングで秘密にするのは、珍しいことじゃないんだぞ。」

翌日の昼、ある定食屋でのこと。高野が勝に呆れ顔で言った。

「俺、いつまでも頼ってもらえてない気がしてさ。それでつい…。」

「つい、大声出して泣かせたのか。どこまで不器用なんだ。まあ帰ってきてくれて良かったよな。」

「帰ってこない場合ってあるのか?」

「ウチの元嫁なら速攻実家だぞ。三年前の女も、たぶん速攻実家派だろうな。」

高野は、バツイチだが、女性の扱いがやたら上手い。よって経験も豊富である。いつ、相手の女性に恨まれて刺されてもおかしくないくらいだ。

「ところで、どうしてそんなタイミングに詳しいんだよ?お前って子供は、元嫁との間に一人だけだよな?」

「い、今はそんなこと話してる場合じゃないだろ!」

珍しく慌てる高野。そんなことまで経験豊富だとはと、感心してしまう勝だった。

「それで、いつ判るんだ?」

「あと数日だって言ってた。」


…と。勝のスマホが鳴った。知らない電話番号だけど、市内だ。

「市民病院です。村木勝さんの携帯で宜しかったですか?」

「はい。」

「奥様の村木芽以さんの体調についてお話ししたいのですが…。」

「はい。」

…“奥様の村木芽以さん”というフレーズにニンマリしそうになる勝の耳に届いた次の言葉は衝撃だった。

「胎児が不安定な状態ですので、このまま入院していただきたいのですが…。」

「たいじ?」

「はい。妊娠2か月です。胎児が安定するまで、入院して安静にしていただきたいのですが。」

ここまで説明を受けて、“たいじ”=“胎児”だと、ようやく飲み込めた勝だった。職場で気分が悪くなって病院に連れて行ってもらったところ妊娠が判明したのだが、あまり良い状態ではないらしい。医師による詳しい説明があるので来て欲しいということだった。

「は、はい。わかりました。では、後ほど伺います。」

電話を切って、呆然とする勝に高野が声をかける。

「どうかしたのか?」

「妊娠で入院だって。ヤバいらしい。俺があんな思いさせたから…。」

勝の目が赤くなっている。

「お、おい。お前が泣いてどーすんだ。すぐに行ってやれよ!」


病院に着くとすぐにドクターの待つ部屋に通された。

「この度はおめでとうございます。…ただ、胎児が不安定なので、しばらくは油断できない状況です。安定するまで、安静を保つ為と、奥様の体調も少々気になりますので、様子を見る為の入院をしていただきたいと考えています。」

「はい。」

…俺のせいだ。俺があんな思いさせたからだ。いつも元気だから、そんな風に見えないけど、体があまり丈夫じゃないことも忘れていた。

「2か月というのは、元気な方でも不安定な時期ですのでね。そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。」

「会えますか?」

「大丈夫ですよ。ご家族の方は、いつでも会いに来て下さい。」


案内された病室は個室で、何本かのコードと機械音の中で、芽衣は点滴を受けて眠っていた。

「…芽衣…ごめんな。」

勝は泣きそうになりながら、布団の上に出ていた手を取る。


…不整脈があったなんて知らなかった。いつも元気なフリをしていた。いや、俺が言えなくさせていたんだ。頼りなさが、言えなくさせていたんだ。かつての俺は、フワフワとした芽衣をしっかりとつかまえておけなかった。あの時どんなに後悔しただろう。そして今、新しい命が、フワフワふらふらしている。今度こそ、ちゃんとつかまえてみせる!


「…勝?」

目を開けた芽衣ががばっと起き上がる。

「寝てないとダメだよ。」

抵抗する芽衣を無理やり寝かせる。芽衣は、状況がよくわかっていないようだった。病院に着いてすぐに、意識を失ったらしい。

「おめでとう。しばらく病院ここで安静にしていれば大丈夫だって。」

「え?」

「…2か月、だって。」

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