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どうして話してくれなかったの?

「どうして話してくれなかったの?」

向かい合った二人の間には、未開封の妊娠検査薬がある。


夜中のリビングでのこと。

見つけてしまった妊娠検査薬について、どう聞こうか勝が考えていると、急に芽衣が目をさましたのだ。


「がっかりさせたくなかったから。もし違っていたら…。」

うつむいたまま答える芽衣。時折、ハンカチで口元を押さえている。

「違っていたら、一人で抱え込む気だったわけ?」

不安そうな勝。泣きそうな芽衣。

…この女性ひとは、いつになったら、俺に本当に寄り添ってくれるんだろう。強いんだか弱いんだかわからない。

「違っていたら、俺が、出て行けと言うとでも思ったのか!」

黙っている芽衣につい声を荒げてしまった勝。

「そうじゃないけど、きちんと判明するまで、言うのが怖かったの。ごめんなさい。」

しゃくりあげる芽衣。また泣かせてしまったと、勝は後悔した。


まだ涙が残る目で立ち上がる芽衣。バッグとコートを手にしている。

「どこ行くの?」

「ドライブ。ちょっと夜風に当たってくる。」

「だったら俺が…。」

「いいの。一人にさせて。」

「ちょっと待てよ!」

勝が腕を掴もうとした、その時ー

パシッ!

真っ赤な目をした芽衣が勝に平手打ちをした。

悲しそうな目で勝をじっと見つめてから、芽衣は無言で玄関を出て行った。


芽衣のスマホが何回も着信を告げている。すべて勝からだ。ホテルだと探し当てられてしまいそうだったので、ネットカフェの個室に潜伏しているのだ。禁煙エリアとはいえ、多少は煙が流れてくる。正直、妊娠しているかもしれない芽衣にとって、あまり良い環境とはいえない。ネットカフェでは、マナーモードにしなくてはならないから、画面を気にしていなければ、着信に気づくのも遅れる。個室でウトウトと横になりながら、気づいたり気づかなかったり。気づいたときも出る気になれなかった。LINEのメッセージも入ってきている。メッセージは、勝からだった。


『どこにいるの?連絡ください。』

『大声をあげて悪かったと思っています。連絡ください。』

似たような内容で何回も入ってきている。もう削除してしまおうかと思ったときだった。

もう一件の着信が入ってきた。

『その後、体調はどう?もう勝くんには話したの?』

親友の里佳子からだった。里佳子は6歳と4歳の子がいる。二児の母として元気にやっている。子供のころから何かと頼りにしているが、特に今回の、この件に関しては大先輩だ。

ガバッと体を起こして、返信しようとしたが、文章にできない。思わず駐車場に行き、車の中から里佳子に電話する。

「里佳子?今、話せる?」

「芽衣なの?うん。話せるよ。どうしたの?」

「実は…。」

今日の出来事を話した。一希の家にお邪魔したこと。そのとき真奈ちゃんの一言でちょっと気まずくなったこと。まだ話さないでいるつもりでいたことが、勝にばれて、怒らせてしまったこと。そして、家を飛び出してきてしまったこと。

「そうだったの。勝くんから連絡は?」

「何回も、ある。でも、話したくない。」

「心配しているはずよ。勝くん、芽衣に信用されてないと思ったんじゃない?電話がイヤなら、せめて、明日には帰るとか、一言だけでも返信したほうがいいと思うよ。」

こうして話している間にもスマホが何回もブルブルっとバイブしている。勝が連絡してきているのだろう。

泣くばかりでほとんど返事もできないでいる芽衣に里佳子が言った。

「そんなに泣いてばかりいると、体が心配よ。もしかしたら、なんでしょ?勝くんなら、大丈夫よ。私には、わかるよ。」

「そうかな。」

「そうだよ。前のダンナとはぜんぜん違う!もうアンタの人生には、あんなこと起こらない!私が保証する。」

「里佳子~!」

ハンドルに突っ伏して泣く芽衣。こんなに泣いたのは、勝と再会した、あの夜以来かもしれない。


『明日中には帰ります。探さないでください。』


やっとのことで一言だけ勝にメッセージを送ったのは、午前2時だった。

勝は当然ながら、眠ることもなく、ずっと探し回っていた。芽衣も、横になっていたが、眠れなくなってしまっていた。


『探さないと約束するから居場所だけ教えてください。心配です。』

『里佳子の家の近くのファミレス。さっきまで里佳子と会ってた。』

『迎えにいくから一緒に帰ろう。』

探し出されるとイヤなので本当のことを告げなかった。案の定、迎えに来ると言い出した。

『もうファミレス出た。今夜は一人にしておいてください。』


それだけ返信して電源を切った。一人になりたかった。勝のプライドを傷つけてしまった自分が情けなかったのだ。


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