「ただいま。」
「ただいまー。やっと言えた。」
芽衣がソファに座って微笑む。まだ安静は完全に解除ではないが、5ヵ月を目前に、やっと退院の許可が出たのだ。3ヵ月ぶりの我が家は、とてもなつかしい。
―ピンポーン…。
モニターに映るのは、依子だった。
「はーい。」
玄関まで出迎えると両手いっぱいの荷物を持って立っていた。
「退院おめでとう。ときどき手伝いに来るから、大事に過ごしてね。」
「ありがとうございます。」
両手いっぱいの荷物はほとんどが食材だった。ほぼ空っぽだった冷蔵庫がとたんににぎわった。
―ピンポーン…。
裕子も駆けつけてくれた。裕子も荷物をたくさん持っている。お菓子、本。手芸キット。芽衣が外をウロウロしないための必須アイテムを揃えてきたのだ。
「さあさ。今日はお祝いしましょ。お寿司でもとりましょうよ。お父さんたちももう来るわよ。」
「じゃあ、私の分は二人前ね。」
芽衣が言うと
「今の妊婦さんはそんな風に食べたら食べすぎでしょ!」
「アハハ。ばれたか。」
思わず笑い声があがる。周りの皆が片付けたり、テーブルを調えるなか、芽衣だけはソファに座っていないといけないのが窮屈だが、それももうしばらくの辛抱だろう。
「さあ、乾杯しましょう。」
テーブルに揃うのを待って依子が言うと、皆がグラスを手にした。
「退院おめでとう!カンパーイ!」
芽以の両親、麻衣夫婦、勝の両親、して勝の弟の翔。みんなが笑顔だ。
「ところで、名前はどーすんの?叔父として俺がつけたい!」
「ジジババがつける方がきっと幸せよ。ねえ?お父さん。」
翔と依子が口々に言う。裕子と麻衣が顔を見合わせる。そこで勝が切り出した。
「あの、考えたんだけど、俺たちで決めるのが一番、平等だと思うんだ。…みんなの意見は参考にしたいと思っているから、一緒に考えて、最後は俺たちで決めるってことで、任せてもらえないかな。」
「そういうことなら…。」
「候補はどんどん挙げていくわね。」
「私も参加していいの?」
皆が口々に言う中、裕子もホッと胸をなでおろす。芽以がそっと裕子に目配せをすると、小さく指でOKというサインが返ってきた。
「じゃあ、時々来るからね。」
「無理しないようにね。」
ワイワイと片付けをして、皆が一斉に引き上げていった。急に静かになって、がらんとしている。
「楽しかったね。」
「うん。」
目立ってきたお腹を撫でながらそっと椅子に座ると、勝がお腹に向かって話し出した。
「パパでちゅよー。聞こえまちゅかー?」
芽衣がそれを見て、照れ笑いする。二人は近頃、本当に自分たちが親になるんだと思うと照れくさい反面、しみじみした気分になるのだ。
ピロロ…。勝のスマホにメールが届いた。
『今日は楽しかったです。名前の候補です。』
依子から、さっそくメールが届いた。
『今のところ考えているのは、金太郎、桃太郎、一休、です。』
「おいおい…。参加権、取り消すぞ…。」
勝がぼやく。画面を見せられた芽衣もさすがに言葉を失った。