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ご挨拶。

長い長い遠回りの末に始まった「ほろ苦い思い出」の続きです。作者の手がストーリーを描くのではなく、小説の中の勝と芽衣の二人が、描いているように思います。

「しかし、驚いたよな。まさかお前たちが本当に結婚するとはね。」

一希が言う。

「色々とお世話になりました。」

勝が照れくさそうに頭を下げる。かつての部長の一希のところに結婚後の挨拶に来ているのだ。新婚旅行のお土産を持って。

「かなり遠回りしたけど、幸せそうでなによりだな。」

芽衣も照れくさそうに笑う。

「どうだ?かかあ天下か?」

「いや、その…イテッ!」

テーブルの下で芽衣が勝の太股をつねったのだ。

「どうやら“良い嫁”やってるみたいだな。まあ、仲良くやってくれよ。」

一希が笑いながら言った。一希の子供で二歳の真奈が芽衣の膝に乗ってきた。芽衣がびっくりしていると一希も驚いていた。

「珍しいな。人見知りなのに。」

「あかちゃんくるよ。」

真奈が芽衣に向かって言った。

「え…?」

全員が同時に言った。一希が真奈を抱っこして聞く。

「今、なんて言った?」

「あかちゃんくるよ。おねーしゃんあかちゃんくるよ。」

全員が顔を見合わせた。この話題には、特に芽衣に対しては慎重にならないといけないことは、ここにいる大人は全員がよくわかっているからだ。

「ま、まあ子供のいうことだから…気にしないでもいいんじゃない?」

我先に沈黙を破ったのは芽衣だった。この話題は苦手。このことで気を遣われるのはもっと苦手なのだ。

「そ。そうだな。」

ぎこちなく笑う一希、一希の奥さんの由美、そして勝。

その後、なんとなく気まずいまま、一希の家をあとにした。


「…気にしてる?」

「何が?」

「真奈ちゃんの言ったこと。」

「ちょっと、ね。でも子供の言う事だから、仕方ないよ。」

帰りの車の中で、勝も心配していた。

実は芽衣は、体調が少しおかしいと思っていたが、勝をはじめ、周りをがっかりさせたくないと思って、内緒にしているのだ。

実は、ここ数日、ビールがおいしく感じられない。大好きなチョコレートを見るとムカムカする。梅干やトマトばかり食べたくなる。昨夜は、夕食を食べずにグレープフルーツを二個も食べてしまった。

しかし、勝は平日はめったに家で夕食を摂らないので、このことを知らないのだ。

検査薬は買ってあるが、まだ検査するには早いようなのだ。あと数日で、調べられる。でももし、違ったら…。それを思うと、勝にすら言えないのだ。


「…体調は、普通なの?」

勝が遠慮がちに聞く。

「うん…。」

こめかみに指を当てて、助手席からの景色を見ている。

「…どうして、そんなふうに指を当てているの?」

勝が不信そうに言う。

「少し、車酔いしたみたい。」

勝のほうを見ずに答える。

「家まであと少しだけど、休もうか?」

「窓を開ければ大丈夫だから。」


家に着いて、すぐにソファに横になった芽衣に勝が聞く。

「ここ数日、いつもより寝るの早いよね?」

「ごめん。仕事で疲れてるから。」

一希の家をあとにしてからほとんど勝の顔を見ようとしない芽衣に、勝は不安を感じていた。芽衣が顔を見ようとしないのは、激しく怒っているときか、相当悩んでいるときの様子なのだ。


そんな勝の心配をよそに芽衣はソファで寝息を立て始めた。

荷物だけでも寝室に運ぼうと、芽衣のバッグを手にしたとき、何かが転げ落ちた。

拾い上げた勝は言葉を失った。


それは妊娠検査薬だったからだ。

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