7ーヴィルクス視点ー
ー3年前の《花の季節》、最後の《休息の日》の昼下がり。
少し大きな美味い《魔獣》を仕留め、満腹になったので何時もの様に泉の側で昼寝をしてた時だった。
何かが腹の方に乗っている感じがして、ふと眼を開けて見てみると眠っている《幼女》が乗っていて驚いた…。
身じろいだ拍子に落としては、と急いで風の魔法で起こさないように慎重に《幼女》を包みそっと傍らに降ろしてみると、どうやらこの世界の住民とは気配が違うと気付く。
森中にこの《幼女》と似た様な気配が無いか探ってみたが気配はやはり皆無だった。
(さて、どうするかな…。
稀に幾つもある異世界から落ちてくる者達が居る、とは聞いては居たけどまさかこんな《幼女》がとはな〜。)
《幼女》はこの世界の《人間》と変わらない髪色や肌の色をしていた、服装も可愛らしいワンピースを着ている。
栗色の長い髪と白いが健康そうな肌、と《幼女》を観察していた時だった。
「ん……まぁま?」
「‼︎」
「…⁈⁈⁈、うぎゃーーぁん‼︎」
眠い眼を擦りながら起きて、俺と眼が合った瞬間に郷の幼竜でしか聞いたことの無い様な鳴きご…泣き声を出した。
「我の名はヴィルクス、其方の名は何と言うのだ?」
竜体では泣き止まないと思い人型に成って抱き上げ、なるべく刺激しないように優しく聞こえる声で名前を問いかけた。
「⁈、…ゔぃーくぅ…?」
「ヴィルクス…だ。」
「ゔぃーくしゅ。」
「もぅ良い…それで?其方の名前を言えるか?」
「?」
人型に成った俺が抱き上げて話しかけると驚いた後に、小さく俺の名前を繰り返したみたいだが上手く発音出来なかった様だ。
《名前》への問いかけは通じていないらしい。
「其方はどうやら別の世界から我の処へ現れた様だ、其方の《まぁま》とやらも見当たらん。
異世界から今までに現れた者達が帰ったという話も聞かぬ、しかしこのままこの世界の《人間》達に其方を預ける気にはなれぬので我が其方の面倒をみよう。
」
抱き上げたまま優しく背中を撫でながら話しかけつつ、この腕の中の命の思いの外の愛しさに思いのまま言葉にしてみたが、《人間》に解る話し方では《幼女》には難しいのだろうキョトンとした表情をしている。
「…我と其方は今日から《家族》になるのだ、《家族》はわかるか?」
「…きゃじょきゅ……あぃ」
舌足らずな声ではあるが、《家族》と言う言葉は解るようだ。
「名が判らぬのでは呼ぶのに不都合故、我が其方に名をやろう、そうだな…」
これから俺の娘として暮らす為にも良い名を付けてやりたい。
この世界で幸せになれる様、この世界で《幸福を司る女神》の名を付ける事にしよう。
「其方の名は今日から幸福を司る女神だ!」
「りうむ?」
「リルム…だ。」
「りるむ?」
「そうだ、そして我の事は父様と呼ぶのだ。」
「とーしゃま?」
発音はたどたどしいが、きちんと名前を言えたので頭を撫でて褒めてやる。
そして、俺の娘になるのだからと父と呼ぶ様に言えば、首をコテンと傾げながら聞いてくるその姿の愛らしさに思わず満面の笑みで抱きしめてしまった。
「そうだ!これからは我が其方の父様だ!リルムは我の愛し子だ!」
それから一緒に暮らすのに必要な物や、子供が好きそうな物を一番近い村に相談に行く為、俺がこの森に住みだしてから近くに集落を作り住んでいる、顔見知りの《狼の獣人》の子供に疲れて眠ったリルムを寝かせている卵型の結界を見ていてくれる様に頼み買い物に出掛けた。
家とか大きな物もあった為王都まで急ぎ、村長の玄孫のアドバイス通り人形も買ったが…夜に起きたリルムに大変怖がられたのでティーヴァの母親が村で開いている服屋に進呈しておいた…。
代わりに貰った縫いぐるみ達はリルムのお気に入りだ。
それからもティーヴァの母親のレイナ殿にはこうして新しい服等を仕立てて貰って大変助かっている。
料理もレイナ殿に習って、『子供は1人で食事はさせてはダメよ〜、一緒に同じ物を食べてあげなさいね〜。』と言われてから同じ物を食べている。ー
パタンとクローゼットの扉をしめた。
【さてと、服を片付け終わったから夕食の仕込みをして迎えに行くか。
どうせティーヴァも食って行くだろうから多めに作らないとな。】
愛しい幼い娘と若い友人を思い浮かべ、夕食に何を作ろうかと思いながら階下のキッチンへ向かう為に部屋の戸を閉じた。