妹と【検閲削除】したい。
朝、ベッドの中で、気づくと腰のあたりに重みを感じる。
思春期男子ならば誰もが思い描く妄想。好きな女の子に朝起こしておらうという展開である。
自慢であるが、俺は今、この世の中で一番好きな女の子に起こしてもらっている。
なに、言うまでもない。妹である。
「おはよう、お兄ちゃん!」
目を開けると妹の顔、頬がゆるむ。うひひ。
「おはよう、奏美」
いやあ、可愛いなあ奏美は。セミロングで前髪パッツン、少々あどけなさは残るが、まさに美少女である。ああ、笑顔が眩しい。まじかわいい。これが天使だ。
思わず抱きつく。
「きゃ!」
叫び声も可愛い。うへへへへへ。
「お、お兄ちゃん……」
驚きからか、奏美は一瞬抵抗する。
さて、賢明な諸君ならばもうお気づきであろうが、俺、神楽奏也は、シスコンである。
また、残念なことに、我が妹、神楽奏美は……、
一瞬抵抗した奏美は、すぐにだらしない顔になった。
――そう、我が妹は、ブラコンである。
俺としては、兄を嫌う妹を撫で回す(比喩表現)のもやぶさかではないのだが、如何せん奏美はそれはもうビックリするくらいのブラコンなので、いわば相思相愛である。
例えば、奏美がブラコンじゃなかったとしたら、俺よりも好きな人を見つけるだろうし、俺は奏美の幸せを望んで、俺は兄妹として正当に奏美を見守ってやれる自信がある。
反対に、俺がシスコンじゃなかったとしたら、俺はきっと好きな人を見つけるだろうし、奏美は出来た妹だから、笑顔で俺を見守ってくれるだろう。
しかし、俺はシスコンだし、奏美はブラコンなのである。
必然的に、我々兄妹が幸せになるには、兄妹でくっつくしか無いのである。じゃあしょうが無いよね、だって奏美が幸せになるには奏美とイチャイチャするしか無いもんね!なんて俺得!
さて、そんなこんなで(そんなこんなという表現は文学への冒涜だとかなんとか偉い人が言ってた)10分ほど我ら兄妹は充電して、居間で、妹手作りの朝ごはんを食べる。朝ごはんを作るのは交代制なので、別に俺はご飯を作れないわけじゃない。
妹が愛をこめて作ってくれた(比喩表現ではない。お兄ちゃん大好き!と言いながら作ってくれる)朝ごはんはやはり美味しい。しかも目の前に座る奏美。これだけでご飯3倍は余裕だ。
奏美はいわば万能女子というやつで、成績は常に学年トップ、運動は部活動こそ所属していないがトップクラスの運動能力、見た目も可憐な美少女。清楚高潔、正に深窓の令嬢と言った風だが、俺と一緒の時だけ顔つきがだらしなくなるのが俺としては非常にポイントが高い。いや、もう、本当に。
対する俺は、ダメ人間……、ではない。
なぜなら、こんなにも完璧な美少女と共にあるには、自分自身を高めなくてはいけない。つまり、兄という立場にかまけて、ダメ人間であることを、この俺、神楽奏也は決して良しとはしない!
もともと、血筋的に顔は良い方だという自負がある。道を歩けば5人に一人は振り返る(俺調べ)。成績は学年トップだし、運動もそこいらの運動部員には負けない。他人には思いやりを持って接するジェントルメンであることを心がけている。基本、妹の前以外では完璧なイケメンを演じきっているはずだ。
朝ごはんを食べ終わり、鏡の前に二人並んで歯を磨く。正直、俺と奏美が並ぶとかなり絵になる、と、思う。
愛妹弁当をかばんに詰め、妹の支度が終わったら、二人揃って家を出る。
学校までの道のりは、徒歩で行ける距離だ。二人並んで、同じ高校の生徒が多くなるまでは、二人で手を繋いで歩く。わあ、手ぇやわらかい。ふへへ、幸せ。
多分相当顔がだらしなくなってると思う。だって奏美もだらしない顔になってるもの。
人通りが多くなる国道前で、手を離す。しかし、奏美は悲痛な面持ちだ。俺だって、そんな顔をしてるだろう。
「お兄ちゃん……ずっと手を繋いでいたい……」
「奏美、俺もお前と手を離すのは辛い。どうせなら学校でも隣にいたくらいだ……」
「お兄ちゃん!私だって……」
俺は無言で、奏美を抱きしめた。
「お兄ちゃん?……、そうだね、私達、ずっと一緒だよね」
「そうだ、奏美。お兄ちゃんは絶対に、お前と一緒だ」
毎朝恒例の、兄弟愛の確認である。あくまで兄弟愛の確認である。
お互いに確認しあって、身だしなみを整え、顔つきをシャキッとさせる。うん完璧。これで兄と妹にしか見えない。誰も兄と妹には見えないだろう。
そうして国道に出て、歩き出す。奏美もいるから、二人の姿に二人に一人は振り返る。
ふふ、奏美の美貌をどこの馬の骨ともしれん野郎どもに見られるのは癪だが、そんな羨望の眼差しで見られては悪い気もしない。どうどうと校門をくぐり、階段で泣く泣く別れ、自分の教室に向かった。