風邪は辛いネ
ズズッ、と鼻をすする。
寒い。
風邪を引いた。
「時人に悪いことしたなぁ。」
今日は休みの日で、時人と遊ぶ予定だった。
風邪を引いたから遊べない、とメールはしたのだが、返信がきてない。
怒ってたりするかもしれない。
「風邪が憎い…」
「雪ちゃん!!!」
目を丸くした。
息を切らした時人が私の部屋入ってきた。
「……不法侵入?」
「あぁっ!えっと…いや…も、もう一回、インターホン押すとこから始めていいかな?」
「いいよ、もう…」
それはあまりに嬉しい不法侵入だった。
「わざわざ見舞いに来なくても良かったのに…マスクしないと風邪うつるよ。」
「大丈夫、僕弱いからもううつるの確定してると思うんだ!」
大丈夫ではない。
「でも嬉しい、きてくれてありがとう。」
そう言ってベッドの上に置かれている手を握った。
「…」
時人の手は好きだ。
細くて骨張っているけど、やっぱり自分よりも少し大きい。
「雪ちゃん…」
つい、じっと見てしまった。
少し恥ずかしくなって手を離す。
「ご、ごめん。あ、喉乾いてない?飲み物あるよ?」
「いやいやいやいや!雪ちゃん病人なんだから!」
立とうとすると肩をおさえられた。
風邪といってもあまりひどくないのに。
「時人は心配症なんだよ。」
「38℃もある人に言われたくありません!」
あれ、38℃もあったっけ。
「熱…計る。」
体温計を手にとり少し着ているシャツのボタンを外すと時人は少し照れ臭そうに反対側を向いた。
…今更感はある。
「うわ、38.2だ。」
「全然大丈夫じゃないね…」
なんだか頭がぼーっとするのはそのせいなのだろう。
「時人がいてくれればいいや…」
「あ、うん!うん…う、うん…」
はずかしそうにしている顔も好き。
「ご飯は食べた?」
「朝は食べた。」
「昼、何食べたい?僕作るよ。」
「ん〜、おかゆ、でいいかな。」
前に時人がご飯を作っているのをみた事がある。
それはそれは酷くて…
「いや、待って時人。」
「えっ!?」
「お、お米と水だけだよ…もやしもゴボウも入れちゃダメだからね…」
「えっ!?もやしと砂糖をいれるつもりだったよ!?」
「何処の民族だよ!!!」
時人に作ってもらうのはやめた。
結果自分で作った。
「ごめんね、役立たずでさ…」
「自立するためにもご飯作れるようにならなきゃ…」
「何処から自立すれっていうのかな…」
時人は少し寂しそうに微笑んだ。
親関係はあまり言ってはいけないのだった。
「雪ちゃん、一人で食べれる?」
そう言うと時人はスプーンを手にとった。
「い、いくらなんでもご飯くらい食べれるよ!」
料理も作れたと言うのに。
「良いから甘えなよ、僕がしたいんです。」
そう言ってお粥をすくったスプーンを近づけてくる。
なんとなく恥ずかしくなりながらも目を閉じ口を開けた。
餌付けされてる気分だ。
しかしお粥が口に入って来ない。
目を開けようとすると、時人が手で目を隠し口に舌を入れてきた。
温かく生温い舌が私の舌の裏筋をなぞる。
何も抵抗はできず、身体の力が抜けていった。
終わったかと思うと手がはなされた。
心臓はドキドキし顔が真っ赤になった。
「ご、ごめん。」
「もういい、一人で食べる…!!!」
死ぬほど恥ずかしい。
し、死ぬほど…
「バカ…」
恥ずかしくてご飯を食べる気分になれない。
顔を毛布にうずめた。
まだ柔らかい感触が残っている。
「もう悪ふざけしないから顔あげてよ、嫌だったよね、ごめん。」
「…嫌じゃない。」
言わないと誤解を招いてしまう気がした。
会話に間があく。
「…ほ、ほら!お粥食べないと体に栄養入らないから!!」
「は、はい!」
時人に食べさせてもらい、完食した。
食欲はあるみたいだ。
「雪ちゃん、寝ていれば明日には治るかな…。」
「時人が襲ってきそうだから嫌だなー。」
冗談まじりに言う。
でもこっちを向いてないが耳が赤くなってるのがわかる。
素直だなぁ。
「さすがに病人だしね…」
頭をかきながら、そういった。
「病人に舌入れてきたくせに…」
「そ、それはしょうがなかったの!」
赤くなった顔でこちらを見てきた。
「目を閉じて口を開けられたら、ドキドキした。」
「そんな事でドキドキするなよ、バカ。」
私の何処にドキドキするのかは全くわからない。
可愛げのない私に付き合ってくれる時人は好きだ。
「そういえば、今日遊べなくてごめん。」
毛布にくるまりながらも、言う。
時人よりも私の方が楽しみにしていただろう。
「いいよ、そんな事。雪ちゃん38℃ってきいてとびだし………」
会話が途切れる。
どうしたのだろう。
時人の方を向くと顔をおさえていた。
「い、今の話は聞かなかった事に…。」
「とびだしがなんなの。」
「いや、いいよ!聞かなくていい!」
気になる。
「いや、心配すぎて、メール返信しないで飛び出してきちゃったって…。」
「ふっ…」
「笑わないで!」
時人らしい。
その好意が嬉しくて思わず抱きつく。
「へ?」
「嬉しい。」
手を細くて今にも折れそうな背中の後ろにまわし肩口に頭をおく。
あたたかい。
「雪ちゃん…熱…あ、あるね。」
キュッと身体がしまるのを感じた、わかりやすい。
「雪ちゃん、もうそろそろ離れないと僕の理性がもたないよ。」
そういいながらも腰に手をあてている。
「うん、病人だから、寝る。」
私はパッと離れて毛布にくるまった。
「そこまで誘っておいて寝るんですね…」
ギシッと音をたててベッドにのってくる。
そのまま私の後ろから毛布ごと抱いてくる。
少し、中指で腹をくすぐられた。
「いっ、いやっ…」
「このままあたためてたら治るのもはやいかな?なんて。」
むしろ、悪化する気がする。
「運動も大事だしね。」
顔が見えないが笑っているような気がして私はもっと恥ずかしくなった。
「病人だから…優しくして。」
そんな声も聞こえなかったような。
ピンポーン
インターホンをならす。
お見舞いにきた。
言ったとおり風邪はうつった。
私は風邪がなおったばかりで免疫はついているから大丈夫だろう。
「あれ?雪ちゃんきたの?」
パンツ一丁のそいつを何よりも先に蹴ったのは気のせいだろう。