幽霊ではなく
がんばるか、と決意を決める。もう、やるしかない。たとえ、フェンリルが、五割しか力を出さなくても、ここで負けたら悔しい。
「よろしくお願いします。海斗さん」
「こちらこそ。ガドマさん」
いかにもリア充顔だ。負けたら恥だな。
「それでは、おらぁっ!」
まずは、俺から先制攻撃。フェンリルで斬りかかる。この時は、フェンリルは力を出していない。
俺が振り下ろした剣は、金属音と共に、弾かれる。
「そんなもんですか?期待はずれです」
弾かれた俺は、ヨロヨロと、体制を崩し、ガドマに背中を見せてしまう。
「私の勝利、ですね」
と、澄まし顔で、背中を狙ってくるが、再び響く金属音。
「なっ?」
「誰の勝利だって!?」
こっちには五割のフェンリルがいる。たとえ、半分でも、その力は強大らしい。完全に体制を崩したが、右手だけが、動き、剣を弾く。
「やるようですね」
「それは、どうも」
体制を直し。今度は自分の力で、剣を振る。しかし、その振りは、あまりにも隙が多すぎる。と、ここでフェンリルが一言、
「たく、しょうがねぇな」
「え?うぁ!」
体が、右手に引っ張られて、右から振った俺の右手は、ものすごいしなりをみせ、左へ。ガドマの脇腹の鎧を叩く寸前で止まる。
「勝負あり!山崎海斗の勝利です」
みたか、このやろう!イヤー、気持ちいい。ガドマの顔は、悔しさと、憎悪にみちていた。そして、国王の顔もまた、しかり。
だが、
「なあ、フェンリル。なんで、最後力出してくれたんだ?」
「もしお前さんが負けたら最強じゃなくなっちまうからな」
「そうか」
と、納得。つまりは、ベルセルクの面子のためか。しかし、フェンリルは、それとは違う理由もあったらしく、
「それにな、声が聞こえたのよ」
「声?」
「おうよ。誰かは、わからないけどな。いや、アイツか?」
フェンリルには、声の主に心当たりがあるらしい。
「誰だよ。アイツって」
「昔、一緒にいたヤツだよ」
昔、一緒にいたヤツ?まさか、フェンリルのお嫁さん?とか、考えるが、剣だし、そんなわけねーか、と言う結論に至る。ここで、アリサが、声をかけてくる。
「海斗!よくやったわね」
「当たり前じゃねぇか」
「おい。お前さん、俺の力で勝てたんだろ」
「気にしないって!」
闘技場での勝負。勝者、山崎海斗。
「いやー。疲れたわね」
アマラス王国の宿に今日は泊まることになり、今は、カウンターで受付をしているのだが、
「海斗さん。荷物を部屋まで運んでおきます」
「ありがと......」
やっちまった。来るぞ。
「だーかーら、私のも持っていきなさいよ!」
「わかりました。海斗さんのを置いたらまた来ますから」
「さっさとしなさいよね」
受付をすまし、廊下を歩いて、部屋に行こうとすると受付の人が、
「あのー」
「なんですか?」
「申し訳ないのですが、この宿、幽霊がでますので」
「はぁ、幽霊、ですか」
幽霊がでる。まぁ俺は、幽霊を信じていないが、宿で幽霊がでる、と言う所は珍しいな。
「アリサ、幽霊だってさ」
と、笑いながら話しかけたのだが、
「ゆ、ゆ、ゆうれい......」
「お、おい!大丈夫か?」
アリサの顔は、真っ青を通り越し、目まぐるしく色が変わる始末だったのだ。
「お前、幽霊苦手なのか」
「う、うるさいわね!に、に、苦手なわけないでしょう!」
そうか。アリサの弱点は幽霊。覚えておこう。何かの役にたつかも。
しかし、本当に幽霊が出るのなら見てみたいものだ。俺は、一度も見たことないから、信じていないだけで、見ることができたなら、俺は信じる方に傾くだろう。ま、どうでもいいか。
――夜――
トイレに起きちまった。いつもは、こんなことないんだが。暗い廊下を突き進む。たしかに、何か、出てもおかしくない雰囲気だが、
「トイレ、トイレっと」
用をたしトイレを出て、再び先程の廊下を歩く。部屋の前まで来て、自室のドアを開けようとした時、
「光り?」
そう。ドアと壁の隙間から光が漏れているのだ。つまり、部屋の中が光っていると言うこと。
「まさか......」
いや、でも幽霊って光るのか?そんな話聞いたことないが。光る幽霊か、新種?
ならばここは、ドアを開けて確かめるしかない。寝れないし。俺は意を決してドアノブに手をかけ、ドアを開ける。
「え?」
光の主は、宙に浮いている和服姿の、女だった。そう、まさにかぐや姫のような。整った顔立ち。品のある雰囲気。
「あいつが、ベルセルクだ」
フェンリルが、喋っている。
「そうですか。夜分遅くに申し訳ありません」
「あ、いや、あの......」
動揺に動揺が重なってゆく。一体この状況は何なんだ!と、とりあえず、だ。
「フェ、フェンリル。お前、この人のこと知ってんのか?」
「おうよ!」
フェンリルが知ってるってことは、まさか......
「わたくし、ベルセルクの精霊をしております、ツクヨミ、と申します」
やっぱり。ベルセルク関係だ。昼間いっていた、昔一緒にいたヤツって
精霊、か。
第二章
『精霊ツクヨミ契約編』
開始。