挨拶は伝統です
「それでは、これから、副隊長任命式を始める」
大衆の中、俺は、王国騎士団の制服に身を包み、堅苦しい格好で立っていた。
「山崎海斗。この者を第一騎士団、副隊長に命ずる。ハルバニア王国、国王、イセリア=アーニング」
差し出された賞状を受け取り、礼をし、席に戻る。
「副隊長、か」
一言呟き、空を見上げた。今日は快晴だ。
「あー。疲れたわ」
「疲れたって、アリサは、イスに座ってただけじゃん」
「うるさいわねぇ。私ああゆう、堅苦しいの嫌いなのよね」
アリサの家に帰ってきた俺とアリサは、『副隊長任命式』の疲れを癒していた。
「海斗さん。お茶が入りました」
「おぉ、サンキュ」
「なんで私より先に、海斗なのよ!」
またか。また、二人の言い争いが始まる。このところずっとだ。
「海斗さんは、今日副隊長になったのですから、優先です」
「だーかーら。あんたは、今私と、契約してるんだから私優先でしょ!」
あの日からルシアさんは、アリサの家のメイドをしている。何故か、と言うと。全ての元凶はズバリ!アルト村の村長だ!
「アルト村を救ってくださったお礼に、メイドを一人、契約いたしましたのでお使いください」
と。勝手に村長が契約してしまったのだ。そして、そのメイドはルシアさんだった、と言うわけだ。おまけに、メイドの契約は、主が死ぬまで。つまり、アリサが死ぬまで切れないらしい。
ところで、
「アリサ、挨拶いくんだろ」
「そうよ!そう。急がなくちゃ」
挨拶、というのは、俺が、騎士団副隊長になった、という挨拶だ。なんでも、ハルバニア王国の伝統らしい。
だが、近所に挨拶に行くのではない。近隣の国に挨拶に行くのだ。五つある。2ヶ月程、渡り歩くらしい。
「荷物まとめなきゃな」
「海斗さん。やっておきました」
「おぉ!ありがとな」
「なんで私のはやってないのよ!」
また、ケンカが、始まる。
「あー、俺外にいるわ」
と、逃げ出した。二人は何か言い争っているが気にしない。ドアを開け、外に出る。そして、壁によっかかり、何気なく、町を見渡す。
いつもの忙しい感じの町だ。ボーっとしてるのもつまらないので、フェンリルに話しかける。
「あーあ。なんであんなに、アリサと、ルシアさんは仲が悪いのかな」
「......お前さん。マジで分かってないのか?」
「わかってない?なんのことだ?」
「そりゃお前、あのメイドの気持ち......おっと。これは俺が言うことじゃねぇな」
「なんだよぉ。気になるじゃねぇか」
「そのうち気づくだろうよ」
フェンリルのヤツ、なんだよ。わかってないって。と、思っていると、突然目の前に黒い影が、
「行くわよ!アマラス王国」
「へいへい」
「海斗さん。荷物お持ちします」
一つ目のアマラス王国に向けて、出発。
「あんた、失礼のないようにね」
「わかってるって」
アマラス王国、宮殿内。
馬車に揺られて三時間。正直酔った。そして、酔ったまま、アマラス王国の国王に会うのだが、うぅ、気持ち悪い。俺とアリサは立て膝をし、大きな扉が開くのを待つ。少し待つと、嫌な音をたて、扉が開いていく。
「よくぞ参ったぞ。ハルバニア王国の者よ。顔をあげてよいぞ」
国王に従い、ゆっくりと顔をあげてゆく。そこには、赤と白の服を身に纏い、玉座に座している男がいた。あれが、国王か。
「お前が山崎海斗か?」
指を指され一瞬動揺するが、
「は、はい。この度、ハルバニア王国、第一騎士団、副隊長に任命されました、山崎海斗にございます」
アリサに馬車の中で、散々こう言え、と言われていたことを喋った。
「そうか。お主、噂によるとあの、マッグルを一人で倒したそうだが?」
アルト村のことか。
「はい」
「そうか。剣を差している所を見ると、お主、剣士のようだが?」
「あっ、はい」
しまった。二つ返事で答えてしまった。まぁ、でも、俺って剣士だよな?
「そうか。ならば、やってほしいことがあるのだが」
「な、なんでしょうか」
「我が国の騎士団長と手合わせをお願いしたいのだが」
「え?」
素で驚いた。何故、俺が騎士団長と手合わせを......
「引き受けさせて頂きます」
「えぇ!?」
本日、二度目の素での驚き。答えたのは俺ではなく、アリサ。なんでお前が答えんだよ!
「そうか!良かった。それでは、闘技場に移動しよう」
あ、うん。その方向で決まったのね。
闘技場に移動中、
「アリサ!なんで、勝手に答えんだよ」
「あの国王が、気に入らないからよ」
「なんだそれ」
「あいつは、自分の国が如何に強いか示したいだけなのよ。ここで断ったらナメられて、これからの外交が不利になるわ」
あー、なるほど。
「つまり、あまりハルバニア王国とアマラス王国は仲が良くないと」
「そうよ」
「じゃあなんで挨拶なんかするんだよ」
「仕方ないでしょ。それが、伝統、なんだから」
そうか。伝統ねぇ。
「着きました」
その声で、前を見る。気づいたら俺たちは、古い闘技場についていたらしい。
「お待ちしておりました。あなたが山崎海斗さん、でしょうか」
「あっ、はい」
突然声をかけられ、なんだ?と思っていると、あちらから、鎧に身を包んだ男がやって来る。......ガシャガシャうるせぇな。
「私、アマラス王国、騎士団長の、シーズ=ガドマです」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
と、軽く挨拶したら、部下が居るところへすぐに戻ってしまった。
「あんた、必ず勝つのよ。負けたら死刑」
「負けねぇって!な、フェンリル」
「おうよ。俺が付いてるからな」
「ほら見ろ」
ドヤ顔で、アリサを見る。が、
「でも、いつも。俺の力があると思っちゃいけねぇ」
「え?」
「今日は、五割しか、力はださん」
「え?なんで?」
「だるい......」
だるい、だと?
「いやな、この前のマッグルの時、あまりに久しぶりだから、張り切りすぎちまって必要以上に力を出しすぎちまったのよ」
「え?そうなの?」
「おうよ」
あー。でも、五割あればね、何とかなるでしょ。ほら、元がスゴいし。
「あっちの騎士団長、相当強いわよ」
「それでは、これから練習試合を始めます」
これは、波乱の予感......