リイ=ルシア。自分に嘘をつかないで
フラフラの足取りで、私のところにやって来た海斗さん。
「あぁ。大丈夫ですよ。それより、お母さん......」
その場に倒れこんでしまう。
「海斗さん!大丈夫ですか!?」
反応がない。私達のために、魔獣と戦い、そして最期まで、私のお母さんのことを気にかけてくれた海斗さんが、
「大丈夫よ。寝てるだけ」
「騎士団のアリサさん?」
自分の剣を鞘に納めながら歩いてくるアリサさんが目に飛び込んできた。
「寝てるだけって......」
「ベルセルクの力を使うと、寝てしまうらしいのよね。全く、めんどくさい力ね」
「ベルセルク?」
「あっ!しまった......」
「ベルセルクとは、あの封印されたって言うあのベルセルク、ですか?」
本で読んだことがある。たしかにベルセルク、といわれれば、魔獣との戦いの時、あの動きは人間では無かったような。その時、突然アリサさんが、大声を、
「あー!もういいわ。そうよ。そのベルセルクよ。それじゃ、私は、捕まってる人を探すから」
アリサさんは、ツカツカと足音をたてて、洞窟の奥に歩いていった。
「お母さん。大丈夫だった!?」
「大丈夫だよ。大丈夫。心配してくれてありがとね」
私は自分の家にお母さんと一緒に帰ってきた。お母さんは無事で、ケガもなかった。
「騎士団の方には感謝しなきゃだね」
私は、騎士団の方、と聞いて反射的に、
「海斗さん......」
と、ポツリ、呟いていた。
「海斗さん?もしかして、あの眠っていた騎士団の方かい?」
「そうだよ。海斗さんが、命を賭けて私達を助けてくれた。私とお母さんのことを、気にかけてくれて、助けてくれて......」
「そうかい」
「でも、私は、お母さんと一緒に暮らそうと――」
「でも?」
私の心は変に正直だったんだ。
無意識に『でも』と、自分の心に嘘をつこうとしていた。お母さんと一緒に暮らして上げたいのに、私の心は、海斗さんと一緒に行きたいと。助けてくれた、海斗さんを今度は、助けてあげたいと、思っていたんだ。
「いや、私は、お母さんと一緒にこれから、暮らすからね」
「......うん。ありがとね」
だけど、私は結局、嘘をつく。私は、お母さんと一緒に暮らす、この気持ちを固めようとしていた。
だけど、窓の外から聞こえてきた声に、その固まった気持ちは、再び......
「村長が、騎士団に仕えるメイドを探してるらしいぜ」
と。まさか、だ。私は動揺を隠せずに、目を泳がせる。今決めたばっかりの心が、再び溶けていく。一体、私は、どうすればいいのか。
「いっといで」
優しさと、慈愛に満ちた声が私の耳に飛び込む。
「行きたいんだろ?海斗さんの所。いいよ。いっといで」
「でも、お母さんが」
「お母さんは大丈夫だよ。この通りピンピンしてるから」
「お母さん......」
「自分の心に嘘をつかないで」
まるで、自分の心が、お母さんに見透かされているようだった。これが、母親なんだな、と。
もう、私の心は、完璧に固まった。
「わかった。お母さん、ありがと」
私は家を飛び出す。