副隊長試験、そして......
「本っ当に何なのよ......あんた」
「俺も、良くわかんねぇよ」
一体、何度目だろうか。この会話。
剣を買ったあの日。練習をするはずだったんだが。
「とりあえず、腰を低く、それで、相手の剣を良く見てやりなさい」
「よっしゃ!」
アリサは遅めに剣を振ってくる。俺は、両手で剣を持ち、アリサの剣を、受け止めようとするのだが、
「うぉ!」
金属と金属がぶつかる音が響く。
「なによ。変な声出しちゃって。それに、剣は両手で持ちなさいよ」
「違う......俺じゃねぇ」
「はぁ?」
俺は......いや、俺の手は勝手に、動き、右手のみで、剣を受け止めていた。俺は、なにもしていない。
「勝手に、動いた」
「勝手に、動いた?そんなわけないでしょ。次、行くわよ!」
それから、毎日のように練習をしていたのだが、勝手に動く俺の腕は、最強の剣士になっていた。どの、角度、どの場所から剣が来ようと、俺の右手は受け止める。相変わらず、俺はなにもしていない。
それで、さっきの会話ってわけだ。
「信じられないけど、あんた
、剣の腕前は私より上だわ」
「だから、俺じゃねぇんだって」
「じゃあ、何なのよ。また。勝手に、動いたっなんて言うつもり?」
実際そうなんだが。横に置いてある、剣を手にもち、考える。やはり、この剣は、何か特別な物なのだろうか。俺が振っても折れない。そして、勝手に動く。いや、もしかしたら、勝手に動くのは、この腕輪のせいかも知れないが。
―――そりゃあどっちもだな
「あんた、なんか言った?」
「いや、俺、じゃねぇ」
「俺だよ。オレ」
声がした方を見る。しかし、そこにあるのは剣。
「あんた、ほんとは何かいったでしょ」
「いや、なんもいってないけど」
「だーかーら。俺だよ!」
次は確実に声の主が分かった。
剣が......
「しゃべったーー!」
あまりに驚き、ひっくり返る。二人で......
「で、お前は何もんだってゆうか、なんで、しゃべんだよ」
「俺はな、ベルセルクの剣、フェンリルだ」
「ベルセルク......」
「大昔、封印された主、ベルセルクの剣ってわけよ。でも、まさか、またベルセルクに会えるとはね」
二人ともひっくり返り、剣が喋ったことに、驚きつつ、剣の取り調べ中。
「本で読んだことあるわ。封印された、ベルセルクは剣を使っていたって。その剣はベルセルクを幾度となく、助けたって」
「それが、俺ってわけよ」
全くもって信じられないが、本当のことらしい。勝手に動くことの謎はここにあったのだ。そして、これは間違いなく、ベルセルクの剣、フェンリルのようだ。
「俺を扱えるのは、この世で、ただ一人。ベルセルクの腕輪をはめた者だけだ。つまり、お前さんってわけよ」
なるほど。
「つまり、俺は、フェンリルが居れば、剣は最強ってわけだ」
「剣だけじゃねぇぜ。この世で最強はベルセルクの他ありない」
「じゃあ、俺に着いてきてくれるか?」
「おうよ!俺はベルセルクが主だからな。お前さん、名前は?」
「海斗だ」
また、一人?増えたようだ。しかし、フェンリルが居れば、試験は余裕で合格だな。
「なに勝手に、話し進めてるのよーー!」
――数日後――
俺は、物凄く気合いが入っていた。今日は、試験の日。どうせやるなら、受かってやる!と。まぁ、俺の気合いなど、どうでもよくて、大事なのは、フェンリルの気合いなんだが。
「いくわよ」
「おう!」
アリサが、ドアの方に歩いていくのを見ながら、フェンリルを担ぎ、
「よろしく頼むぜ」
「おうよ!」
「よし、行くか」
試験は、城でやるらしい。よし、と再び気合いを入れ、アリサと一緒に外に出ようとすると、突然、ドアが大きな音とともに、開け放たれた。
「アリサ隊長はおられるか!」
息を切らした一人の男が入ってきた。
「私、だけど」
「たった今、王国に、盗賊討伐の依頼がやってきまして」
「盗賊って、それは第三騎士団の仕事でしょ?」
「いえ、それがどうも魔獣が盗賊を操っているらしいのです」
「なるほど。でも、私たち、これから、副隊長試験にいかなきゃいけないのよ」
「それが、国王様が、盗賊討伐をその、試験にすると」
「盗賊討伐が試験?」
「いきなり、実戦って訳ね。分かったわ。で、場所は?」
「アルト村です」
「分かったわ。国王様に伝えて、必ず討伐してくると」
「分かりました。ご武運を」
と、言うことで、俺の試験は、いきなりの実戦。盗賊討伐に、決まった。しかし、魔獣が、人を操ることなんか、あるんだな。
大きく背伸びをし、長旅の疲れを発散する。アリサの家から、約2時間。馬車に揺られて、アルト村にたどり着いた。
「見た感じ、別に盗賊が来たって感じじゃないけど」
「そうね。とりあえず、村長に挨拶にいくわよ」
村は、賑わっては居ないが、ほのぼのとしていて、実に老後に暮らすなら、ここかと思うほどに。
「ここね」
村長のいる家に着いた。
「ごめんくださーい。王国騎士団の者です」
アリサが中に向かって、声を掛ける。すると、ドアが、ゆっくり開き、初老の男が出てきた。この人が村長か。
「これはこれは。騎士団の方。どうぞ。こちらへ」
村長の家に入り、椅子にすわる。村長も机を挟んだ向こう側の椅子に座り、
「どうも、私がアルト村、村長のキボ=スマニです」
「第一騎士団、隊長のアリサ=イーグルです。さっそくですが、盗賊の件について、お聞かせ願いますか?」
盗賊、というキーワードを聞いた瞬間、キボ村長は顔をしかめる。
「えぇ。先日、夜に盗賊がやってきまして、村の、食材、金品、そして、村の、人間が何人か......」
人も、か......
「それで、次の夜、連れ去られた者が、盗賊となってやって来たのです」
「盗賊となって?」
「はい。それで私たちは、魔獣が関係していると判断したのです。魔獣の名前は――」
「マッグル、ね。人の脳を操り、道具にする最低な魔獣」
「えぇ。恐らく」
「わかりました。とりあえず、作戦を練り、明朝、討伐にかかります」
「有り難うございます。それでは、何かありましたら私に申し付け下さい」
俺の試験は『マッグル』の討伐。また、ベルセルクの力を使えるかどうかはわからないが、アリサのために、なにより、村の人々のために、
必ず倒す!
第一騎士団、副隊長試験、
マッグル討伐、
開始。