ビュン!ボロボロってなもんで
日当たりよし。部屋はなんと、6部屋。そして何よりキレイでおしゃれ。こんな夢の物件に俺は住んでいる。だが、問題がひとつ、先に住んでいる人がいる。
あれから半月とちょっと経った。今俺は最近の日課のランニング中だ。いや、俺がやりたくてやっている訳ではない。強制だ。ほんとに酷いと思う。いつも家でぐうたらしている俺に
「毎朝、城の周りを十週よ!」
と、アリサに言われた。剣はまず、体力から、らしい。
全く、城の周りが何キロあるか、しってんのかよ。
息も絶え絶え、見えてきたのは俺が住んでいる家。
「ただいまー」
「遅い!なにしてんのよ!」
はぁ、と大きな溜め息をついてしまう。アリサが居るのだ。まぁ当然といえば当然何だが。何てったって、ここアリサの家だから。
「早くしないさいよ。だらだらしない!」
「はいはい」
住む家が無い事が発覚したあと、二人で考え込み、悩んだ。一時間位悩んだ。そして、二人とも何故か変なテンションになり、
「そう言えばさ、アリサの家とかどうよ?」
と、俺が言ってしまった。何故だ!なぜあんなことを。
今になって後悔している。
アリサも止めてくれれば良かったのに、
「それいいじゃない!剣の練習もできるし!」
ヤッター!と二人でハイタッチ。我に帰ったときは既にこの生活だった。こういう経緯で今に至る。
だが、今日は少し違う。いつもなら、今から剣を使った練習なんだが、
「剣、買いに行くわよ」
「分かってるって!」
そう、今から剣を買いに行くのだ。誰の剣?俺のに決まっている。なぜ今更買いに行くのか。これには理由がある。
その理由とは......
「全く、あんたに何本折れば気が済むわけ?家の剣全部折ったわよ、あんた」
「しらねぇよ。俺は普通にやってんだよ」
原因が良く解らないが、俺が剣を使うと、その剣は粉々になってしまう。もしかすると、この腕輪が原因なのかも知れないが、かれこれ、50本は折ったような気がする。なので、今日は、折れない剣を買いに行くのだ。このままでは練習などままならない。と、アリサが
「いくわよ」
「お、おう」
「なによ?なんか変?」
マジで?という心境だ。アリサの私服を初めて見た。いつもは、騎士団の制服だから、私服を見るのは初めて。なんて言うか......可愛い。
いつもは結ばれている髪を、今日は、解いており、腰まであることを今知った。そして、服が、なんつうか、ボーイッシュ?ファッションに疎い俺には良く分からんが、そんな感じの服だ。それを着こなし颯爽と俺の前に現れたのだ。爽やかの塊みたいな奴だな。
「何ボーッとしてんのよ!」
「ん?あ!いや、何でもない」
挙動不審に眼が泳ぐ。
「は、早く行こうぜ」
「なんか怪しいわね」
と、言いながら家のドアを開ける。ギィーと嫌な音をたてて開く。アリサの家は城からそこまで離れていない。なので商店や酒場は普通にあり、賑わっているのだが、やはり、あの城下町程ではない。
「で?どうすんだ?ここで買うのか?それとも、城下町に行くのか?」
「わたしの、行きつけの所があるから、そこいってみるわ」
行きつけって、居酒屋じゃないんだから......
「行くわよ」
アリサが歩き出す。俺も人混みを掻き分けながらアリサに付いていく。すると、
「ここの奥よ」
そこは、裏路地だった。暗く不気味な雰囲気を発している一本道だが、アリサはそそくさと歩いていってしまう。はぐれたら俺は迷子なので、急いで追っかけていく。一本、裏に入っただけで辺りは静まり返り、なんとも言えない空気が漂っている。一歩、また一歩と進んで行くと、
「ここよ」
ここよって。そこはボロ屋だった。人がいるのかどうかも怪しいほどの。だが、アリサは何の躊躇いもなくドアに手をかけてドアを開ける。そして、ボロ屋の、なかに入った。そして、目に飛び込んで来たのは壁一面に剣やら槍やらが掛けてある場所だった。その奥のカウンターに人がいた。その人は、髪がボサボサで、アゴヒゲがトレードマークのおっちゃんだった。
「おっちゃーん。久しぶり!」
「アリサちゃん!久しぶりじゃないかぁ」
あ、この人いい人だ。もうね、声が親しみ溢れてるからね。やっぱ、人は店で判断しちゃだめだね。
「おう?今日はボーイフレンドなんか連れてきて、どうした?」
「ち、違うわよ。こいつは山崎海斗。今度、騎士団の副隊長にと思ってね」
「ほー。副隊長か」
「よろしく、お願いします」
「で、今日はどうしたんだよ?」
「剣を買いに来たのよ」
「剣?アリサちゃんこの前一杯有るとか言ってなかっけ?」
「それが、こいつが全部折っちゃったのよ」
「全部折ったぁ?」
「あ、折ったっつうか、なんか俺が剣を振ると、ビュン!ボロボロ、てな感じで粉々になっちまうんだよ」
「ほー。なら丈夫なのがいいよな」
そう言うと、カウンターの奥に入っていき、そしてすぐに戻ってきたのだが、その手には大きな箱が。おっちゃんは、箱を「よっこらしょ」と床に置き、
「この箱の中にはな、100本近く剣が入ってる。この中から探すのが手っ取り早いんじゃねえか?」
「そうね。どれにしようかしら」
アリサとおっちゃんは箱の中を覗き込み、ガチャガチャと音をたてて剣を漁り、
「これなんかどう?」
「ちょっとまてよ。これもどうだ?」
と楽しそうに、剣を探している。
俺は、と言うと剣の事なんか何も知らない。なので、こうして、突っ立ってることしか出来ないのだ。そろそろ、自分の惨めさと、寂しさに心が折れそうになってきたとき、
「兄ちゃん!ちょっとこれ、つかってみな」
と、おっちゃんが言ってきた。見ると、それは中々丈夫そうな感じがする、ようなきがする。
「でも、粉々になっちまったらあれだし......」
「なーに。きにすんな。アリサちゃんはウチのお得意なんだからよ。今日は何本折ってもいいぜ」
なんて太っ腹のおっちゃんなんだ。
早速、おっちゃんから剣を受け取り、
「おうらぁ!」
思いっきり縦に振った。すると、やはり、剣は粉々に。
「おう!ほんとに粉々になっちまったな。不思議なこともあるもんだ。」
「はぁ。あんた、剣向いてないじゃないの?」
「今さらかよ!」
「よっしゃ!折れない剣を見つけるまで振って、振って、振りまくれ!」
威勢のいいおっちゃんはそう言って、笑っている。想像したくないが、この店にある剣を全部......なんて事が起きませんように。
やっちまった......
「あんた、ほんとにどうかしてるわよ」
「兄ちゃん。どういうこった。これは」
「すいません......」
100本+壁に掛けてあった剣をすべて粉々にしてしまった。ヤバイ。床に鉄の山が出来てしまった。
しかし、一体この世に俺が振って折れない剣などあるのだろうか。アリサがいった通り、剣は向いてないじゃないのか、なんてことも思い浮かび、試験、どうすんだ?とか思っていると
「あと、一本」
「え?」
「あと、一本剣がある。たが、実はその剣、出所、作者、その他一切が分からない危険なものだ」
真剣な顔をして、俺を見ている。
「ここまで来たら、行くとこまで行ってやる!持ってきてくれ」
「おう。ちょっと待っとけ」
おっちゃんは、再び店の奥へ。しかし、何も分からない剣ってなんか興奮するな。
「あんた、次の剣がダメだったら、どうすんのよ」
「そん時は......その時考える」
本当に、どうしようか。次の剣もダメだったら。やはり、ベルセルクに、剣は扱えないのだろうか。不安ばっか募るなか、奥からおっちゃんが出てきた。
「これだ」
それは、確実に高い箱に入っていた。どう考えても、今まで振ってきた剣とは違うオーラを放っている。
「これ、どうしたのよ」
「いや、結構前に売りに来た奴がいてな。ま、とりあえず振ってみな。こいつでダメだったら、お手上げだ」
「はい」
目の前に差し出された剣の柄を手に取る。何の装飾も無いシンプルな剣だ。それを、持ち上げ、上に振りかぶり、
「ふん」
―――壊れない
「これ、か」
「やっとかよ。兄ちゃん」
「たく、あんたは何本折ったのよ」
こいつが、ついに出会えた剣。やっと、壊れない剣が。安堵と安心のため息が漏れる。すると、アリサが値段の話しをし始めた。
「さて、おいくら?」
「うーん、兄ちゃんこの店の剣全部折っちまったからなぁ」
「すいません」
これは、相当な額がきそうな予感......
「いいぜ、タダで」
「え?」
「兄ちゃんが折った剣の額は実は俺が10年暮らせる位の額だ」
「うっ」
「だが、それが俺たち国民の命を守る騎士団のためならタダだ」
「あの、おっちゃん、いい人だったな」
「当たり前よ」
俺はアリサの家に帰ってきて剣を見ながら、アリサにあることを聞こうと思っていた。
「そういえば、騎士団の仕事について聞いてなかったな。さっきおっちゃんが、国民の命を守るため、とか言ってたよな?」
「あぁ、そうね。騎士団はね、第一、第二、第三に別れているのよ」
「それで?」
「第一騎士団が、魔獣討伐で、第二が、第一の補佐。第三は、国民の要望を聞く。てなかんじね」
「で、アリサが隊長しているのが、第一騎士団で、俺が入るのもそこってわけだ」
「そうよ」
なるほど。それと、これはアリサに聞いても、分からないと思うので止めておくのだが、この剣は何故、折れないのか。おっちゃんの店で名鍛冶屋が打った剣も振らせてもらったが、例外なく、粉々。なのに、何故、出所不明、作者不明のこの剣が粉々にならないのか。全くこの世界は、不思議に出来ているようだ。この剣について、もう少し考えようとすると、
「それじゃあ」
「なに?」
「練習よ。練習!」
「へいへい」
「せっかく剣も手に入ったんだからバシバシやるわよ!」
重い腰をあげ、外に出る。まあ、剣のことは後でいい。
実は、今日からがまともな練習。今までは剣が粉々になったら、おしまい、だったからな。やったるか!
ハルバニア王国、第一騎士団、副隊長試験まであと、
15日