星空
「アリサちゃーーん!大丈夫だった?」
「えぇ。まあ」
心配するくらいなら調査なんて行かせんなよ。と、思いつつも今回の収穫はでかい。三人目のツクヨミ、それにもう一つ。
「さぁ。国王!報酬を!」
「え?なに?報酬?」
すっかり忘れているみたいだ。
「食べ物よ」
「あぁ!おーい!この者たちに食料を渡してしんぜよ」
と、変に国王らしく振る舞い部下に食料を持ってこさせている国王。
「出来れば外にある馬車に積んどいて欲しいわね」
「おーい!馬車に積んどいてしんぜよ」
まったく。アリサはカンリア国王の使い方をよくわかっているな。
「積みすぎよ!」
カンリア国王のくれた食料は、なんと俺達三人で暮らしても一年ほど暮らしていける食料をくれたのだ。それは膨大な量だ。これには馬車を引く馬もお怒りのようだ。進む速度がすこぶる遅い。
「まぁ、気長に帰ろうぜ?」
「気長にってもう夜よ?」
そうなのだ。もう辺りはすっかり日が暮れて、それに砂漠というのは昼は太陽が当たって暑いのだが、夜は真逆の極寒の地になる。前にビンカ連合国でもらった防寒着が無かったら、凍え死んでいるところだ。
「あぁーさむっ」
と、アリサが背伸びをした。まぁ、無理もないな。結構な時間馬車の上だ。腰が痛くなるのも分かる。
「......きれい」
と、一言。アリサが唐突にそう放った。なんだ?と思いアリサの方を見ると、空を見上げている。気になったので俺も空を見上げてみると、そこにあったのは、満天の星空が広がっていたのである。気づくとルシアさんも空を見上げていた。
「きれい、ですね」
本当にそうなのだ。きれい、の一言しか出てこないのだ。一つ一つがまるでダイヤモンドの様に輝いて、星空を照らしている。
「何百年ぶりだ?こんな星空を見るのは。懐かしいぜ」
フェンリルが懐かしむようにそう呟く。
「そうですね。わたくしも一体、いつからこの星空を見ていなかったのでしょう」
腕輪から出ていたツクヨミもフェンリルと同じく遠い日を思い出しているようだ。
「ま、これを見られたんだから、食料の量については不問に返そうぜ」
と、アリサにいってみる。
それを聞いたアリサは、こちらを振り返り、「当然じゃない」といった顔で数秒俺を見ると、再び星空観察に。この御一行は星空が好きらしい。
そうだ。この世界に星座はあるのか確認しよう、と思いつき俺も星空観察に。まぁ俺が知っている星座は少ないが、多少なら分かる気がする。
......はい。一個も無い。星座は元の世界とは共通では無いようだ。まぁ、星座が無いからといって、この美しさは変わらないのだが。
「で?次は?」
宿についた俺達は暖炉で暖を取りつつ、明日の予定を決めていた。次に行く国を聞こうと思って。もしかしたら、最後の一人のツクヨミがそこに居るかも、と思っていたのだ。
「そのこと、なんだけどね。実は挨拶に行く予定だった残りの国が、滅亡したわ」
「め、滅亡?」
滅亡した。これは大惨事では無いか。しかし、アリサは落ち着いた声で続けた。
「そんなに驚く事じゃないわ。この世界では魔獣によって滅ぼされる国が年に、二、三はあるわ。海斗の世界じゃどうかわからないけどね」
「そうなのか......」
そうらしい。少なくとも俺の世界ではそんなことは無い。
なら、仕方ない。ツクヨミ探しを続行するか。
「ツクヨミ。最後の一人はどこにいるんだ?」
「そうですわね。確か、アスリ王国、だったような気がします」
「アスリ王国?」
アリサが聞き返してくる。アスリ王国に疑問があるようだ。
「アスリ王国って、今話した滅亡した国の一つだわ」
「なんと。そうですか。わたくしの記憶が正しければアスリ王国の地下に居る、と記憶しているのですが」
「確かに、噂ではアスリ王国には地下迷宮があると聞いたことがあるわ」
「そう!そこです。地下迷宮の最新部に居るのです」
「そうか。なら明日にでも行って、契約を果たしてしまおう」
「そうですわね」
俺は、一つアリサに聞きたいことがある。
「アリサ。お前ついてくるか?」
「え?」
「だから、アリサの仕事の挨拶回りは終わったわけだし。帰ってもいいぞ?」
と、俺が言い終わると、アリサは一瞬考えて、
「行くわよ!あんたが調子に乗ってコロッと死んじゃうかもしれないし」
「そっか」
ルシアさんは何も言わなくてもついてくるだろうし、まぁ面子は変わらず、だな。
きっと、この先も増えることがあっても減ることは無いだろう。