三人目のツクヨミは......
謎の建造物に入り口がある。まぁ当然といえば当然なのだが。
入り口と、俺達の距離は、約10メートルほど。その入り口はというと、シンプルで、人一人がギリギリ入れるくらいの高さと横幅である。
「いくか」
建物の中へ俺の他に、アリサ、ルシアさんの三人で入っていく。
「暗いですね」
確かに暗い。明りは一切なく、多少は目が慣れてきたが、まだまだ前はよく見えない。今にもなにか出てきそうだ。
数分ほど進んだだろうか。さすがに目も慣れて、暗いながらも多少は見えてきた。建物は恐らく石で出来ているのだろう。岩肌が丸出しで、まるで荒削りのトンネルのようだ。
「海斗さん!あそこ!」
ルシアさんが一本道の先の方を指しながら、明るい声で喋りかけてきた。俺も、なんだ?と思ってルシアさんが指差す先を見る。
「光ってる?」
かすかな光が壁にはあった。つまり、ツクヨミが近くに居る、ということだ。
「近くに居るのね」
「あぁ。多分な」
ずんずんと、三人で進んで行く。
入り口から距離にして1キロほど歩いただろうか。先程までの閉鎖された一本道ではなく、広い空間にでた。ここは恐らく建物の中心部に当たるのだろう。そして、その奥の場所に居たのだ。
「三人目のツクヨミ、だな」
と、俺が三人目のツクヨミに、言うと、コクりと頷き、
ツクヨミが近寄ってくる。自分も歩み寄ろうとしたとき、
「海斗様!いけません!」
「ん?」
腕輪の外にいたツクヨミが、普段はあげない大声を上げた。それに驚いて俺の足は止まる。
「チッ」
と、どこからか舌打ちが聞こえた次の瞬間。
「アァァァァァァァァ!」
咆哮。それは俺の進んでいた方向、つまり、三人目のツクヨミが、咆哮をあげたのだ。それはこの空間に反響してやがて消え去る。
「ツクヨミ、じゃねえな」
「ツク......ヨミ」
「気をつけて!アイツはサレイ。いろいろな物に擬態して、不意打ちする魔獣よ!」
「ははーん。またバトルかよ」
「申し訳ありません。魔獣の擬態が余りにも完璧だったので近づくまで気づきませんでした。あの魔獣の中に、三人目のツクヨミが居ます」
「あいつ、喋ってるぞ?」
「聞いた言葉をおうむ返しに喋ってるだけよ。意味なんてわかってないわ」
ほう。ツクヨミにもわからない程の擬態能力は誉めてやろう。だが、不意打ちしかしてこなかった奴に、闘いなんて出来るのかね。と、一つ、妙案が浮かんだ。
「アリサ。お前が闘うか?」
「そうね、と言いたいところだけど、ツクヨミはいいのかしら?」
と、俺の提案を聞いたアリサはツクヨミに目を向ける。
「いえ、海斗様が闘って下さらないと、ツクヨミは契約まで至ることが出来ません」
「そっか。んじゃやるか。皆は下がっててくれ」
全員が下がったのを確認してからベルセルクに語りかける。
―――なんだ。また闘いか。今度はなんの魔獣だ?
なんだっけ。たしか擬態する魔獣だ。
―――ふむ。サレイか。
ちょっと、一ついいか?
―――なんだ?
お前なんか慣れなれしくね?最初はもっとかしこまった感じだったろ。
―――そりゃあ海斗がこの世界に来てから一緒なんだから、慣れなれしくもなると思うが?と、それより、今回の魔獣は、そうだな、あいつにしよう。ゴブリンのボスだ。
この前戦ったやつか。なるほど。特徴は?
―――それは、一撃の重さ、だ。スピードはそれほどないが、一撃の重さはこの世界随一だ。だから、一撃で仕留めろ。
「了解!」
と、自分に言い聞かせるように大声を上げた。腕輪からは、赤色の刺青が延びてきて、体にまとわりつく。これもなかなか心地よくなってきた。
「りょ......う...かい」
「慣れない言葉は使うんじゃないぜ?」
一撃で仕留めろ、とのことなので、先ずは相手の出方を見る。
サレイの方を見ると見たことない男の顔になっていた。こちらとしては好都合。ツクヨミの顔を殴るのは気が引けるからな。サレイは腕の部分だけ剣の形に変えて、飛びかかってきた。それを華麗に避ける俺。多少なりとも身体能力は上がっているようだ。剣を避けられてバランスを崩したサレイに向かって、俺は拳を握りしめた。
「決着、ありだな」
と、余裕の笑みを浮かべ、拳をふりかざそうと力を込める。すると、サレイが首だけをこちらにクルリと向けた。俺はその顔に戸惑いを隠せなかった。
「卑怯だろ!」
サレイの顔はいつのまにか、見知らぬ男の顔から、アリサの顔に変わっていた。一瞬止まる俺。それを見逃さずにサレイは跳び跳ねつつ距離を取る。
「クソ」
アリサの顔をしたサレイに戸惑い、仕留める時を失った俺。どうすればいいのか。サレイが、この先もここにいる奴等の顔をして、精神的に俺がサレイを仕留められないようにするのは明白だった。
ならば、解決法は一つ。見ないことだ。サレイの顔を。つまりは目を瞑るのだ。
殺らなければ、そのうち、殺られる。
決意した。俺はゆっくりと目を閉じていくのだった。