ベルセルクこそ最強。最強こそベルセルク。
見えているのはゴブリンのボス。見えないのは自分の心。自分は一刻も早く逃げ出したいのに、ベルセルクは戦いを望んでいる。
「分かったよ。やるよ。戦えばいいんだろ」
ベルセルクは戦いが迫ると俺の心と同化し、会話出来るようになる。遠くに行ってもらったアリサを見つつ、
―――そうだ。戦え。
「こいつ強そうだぞ?俺の五倍はある体、明かに他のゴブリンを寄せ付けないオーラ。勝てんのか?」
―――負ける訳がなかろう。ベルセルクが最強。最強こそベルセルクなのだから。
「で、今回は何の魔獣の力だ?」
―――そうか。ツクヨミが居るのか。ならば貸す力は、タイガイコール。お前......海斗と言ったか、海斗が、この世界に来て初めて力にした魔獣だ。
高揚していく心と体の熱。
「あいつか。あいつの特徴は?」
―――タイガイコールの力は、圧倒的な威圧感と弱点を見極め出す眼だ。それを使え。
「分かった。じゃ、行くか!」
ベルセルクの心が、俺の心と同化する。それと同時に腕輪から刺青が延びてくる。それは、まるで生き物のように体にまとわりつく。前に見たことのある模様。これで力が備わったと。
ゴブリンのボスとの距離、約100メートル。今回は焦る必要は無い。
「ヴァァァァァァッ!」
叫び声が耳に響く。森に反響する。俺......俺達は、ボスの赤い眼を睨み付けながら、ジリジリと距離を詰める。ボスも近づいては来るのだが、すぐに後ろに下がってしまう。タイガイコールの力の威圧感に負けている。
「どうした?ボス。かかってこいよ」
そして、わかることが一つ。ボスの弱点だ。俺の眼が右目だけ動き喉を見ている。そうか。喉が弱点。しかし、ボスは大きすぎて届かない。が、今の俺達には関係の無い問題だ。喉に届かない?ならば、喉を持ってくればいいのだ。
気づけば見上げる位置にボスがいる。距離は、約10メートル。この距離ならば、
「伏せろ......」
「ヴァゥゥ!!」
その声の重量感、威圧感はまさに天が降ってくるかのよう。その天に押し潰されるかのように地響きと共に、体を地面に叩きつける。抵抗しているのだが、無駄。そして、俺達の目の前には喉がある。弱点の喉だ。
「あっけない最期だったな。そうだ。ついでに森のゴブリンも一掃してやる」
フェンリルを、取りだし、喉にあてる。今回はフェンリルの力では無い。俺達が動かしている。
「終わりだ」
俺達は空に向かって剣を投げる。回転しながら剣はボスの喉へ。ボスの喉には呼吸を司る神経が通っている。そこに衝撃を与えれば、わかるよな。
乾いた音と共にボスの呼吸が、止まった。唸り声もあげずに眠るように。次は森のゴブリンどもを一掃しよう。
「消えろ......」
風が舞う。木々の間を通り森の奥まで吹き抜けていく。それと同時に、あちこちから呻く声が聞こえる。これは、ゴブリンの声だ。
「勝った、か」
「すごい......」
一部始終をみていたアリサが、驚いた顔でこちらを見ている。まぁ当たり前だよな。ゴブリンのボスをたった五分たらずで倒してしまったんだから。
ここで、あることに気付く。気が遠くならないのだ。いつもなら魔獣を倒したあと、強い疲労感と共に気を失うのだが、今回は疲労感は相変わらずだが、気を失わないのだ。これはまさか、
「ツクヨミ。お前の力か?」
「そうです。まだ、私一人では疲労感まではできませんけど」
そうか。これがツクヨミ。なるほど。ありがたい力だ。
「それでは、右手でふれてくださいますか?」
「ボスか?」
「えぇ」
横たわっているボスに右手を伸ばし触れる。恒例の光の塵になって腕輪に吸収される。で、
「二人目のツクヨミは?」
「もう、わたくしの中です」
まぁ、そうだよな。
「と、言うことは、二人目のツクヨミと契約完了ってわけね」
「おわっ!」
突然横から来たアリサに驚いて、疲労感も重なり尻餅をつく。
「なによ。そんなビックリしなくてもいいじゃない。それより、今回は気を失わないのね」
「そうなんだよ。ツクヨミの力らしくて。まぁ相変わらず疲労感はあるけどな」
「まぁ、気を失わないだけでも助かるわ。気を失ったら、あんたを背負っていかなきゃいけないからね」
「確かにそうだな」
「それじゃあ、帰るわよ」
「おう!」
二人目のツクヨミ、契約完了。
残り、二人。