Funny memory
むかしむかしのおはなしです。
うまれたときから他の人物の記憶をもっていた少女がいました。
記憶といってもその人物の家族はおろか、自身の名前さえ思い出せません。
しかし、ただ捉えどころのない渇望が身をやき続けていました。
誰かを待っているのです。
ずっとずっと。
約束を果たすために。
でも、どんな約束だったのでしょうか。
そんなことも忘れています。
年の数が5をこえたあたりでしょうか。
だんだん忘れていっていることに気がついたのは。
あたりまえといえばそうなのでしょう。
この体はこの記憶の人物とは違うのですから。
けれども彼女はその現実を拒みました。
約束を忘れたくなかったからです。
だから、この体に心も名前も記憶もいらないと思いました。
注がれるおもいを拒み続けました。
それでも時の流れは残酷です。
必死な彼女の願いも儚く消え去り、約束も、捧げた熱量も忘れ去っていました。
後には何もありません。
ただ、私の記憶に残っているだけです。
今、幼い頃のことを思うと、なんて滑稽だったのかと思う。
何かに恐れ、心を閉ざし続けた「わたし」。
心ばかりか、名前も、記憶も疎んだ。
まるで上書きされるのを拒むかのようにいた「わたし」のことを。
今、それがわからない。
どうしてそうしたのかわからない。
当時は身近に切々と感じられたものがわからない。
もう、記憶しかない、残っていない、「わたし」じゃない。
きっとそれは、「わたし」が上書きされて私になってしまったからだろう。
拒んでいたのは「わたし」であるため。
体を失い、名前を失い、記憶さえもほとんど忘れ去ってしまった、けれども「わたし」であることを失えない最後の足掻きだ。
でも、それも時の流れとともに完全に過去のものへと...遺物へと変わる。
だから、私は思う。
理解ができないから、してあげられないから。
名さえ知らない、けれども自分であったはずの人。
ごめんなさい。
私はもう滑稽だとしか思えない。
どんなに遠く離れていても、待っていればいつか必ず巡り会えると思っていました。




