作者を殺しに来る勇者
『作者を殺しに来る勇者』
勇者は、魔王を倒した。
世界は救われ、祝祭は七日七晩続いた。
だが、祝福が終われば、現実はいつも同じ顔でそこに立っていた。
幼馴染の魔法使いは、長い戦いで身体を壊し、静かに病で死んだ。
聖女は戦士と結ばれ、幸せそうに微笑んでいたが、ある日、事故で二人まとめて帰らぬ人となった。
勇者だけが、残った。
剣は錆び、鎧は重い。
嫁はいない。子もいない。腹も出てきた。
英雄譚の『その後』に、居場所はなかった。
それでも世界は、今日も不幸を量産していた。
「おお、勇者よ!」
老いた国王が、玉座から声を張り上げる。
「我らを救い給え。我らの不幸を、悲しみを、すべて取り除き給え!
これらを与える“存在”を、討伐してほしいのだ!」
勇者は思った。
……それは、俺自身がずっと考えていたことだ、と。
なぜ、世界はこんなにも不幸なのか。
なぜ、自分だけが、こんなにも空っぽなのか。
勇者は長い旅に出た。
剣術ではなく、魔法でもなく、この世の秘術すべてを学ぶために。
世界の外側。因果の裏側。
そして、勇者は跳躍した……異世界に。
そこにいたのは、一人の男だった。
嫁はいない。子もいない。腹の出た、中年の男。
机に向かい、必死にキーボードを叩いている。
『作者』だった。
「……不幸でないと、物語は読まれないんだ」
作者は、勇者に気づき、青ざめながらも言葉を絞り出した。
「幸せだけじゃ、誰も続きを読まない。
だから、苦しませた。殺した。奪った。
全部、食うためだった……」
勇者は剣を抜いた。
自分の仲間たちの死。
世界中に溢れる悲嘆。
それらが、目の前の男によって『作品』として消費されていた事実。
作者は、床に額を擦りつけた。
「頼む……!罪があるなら、俺だけを殺してくれ!
読者を、他の作者を、世界を巻き込まないでくれ!」
勇者は迷った。
この男を殺せば、物語は終わる。
だが、物語が終わった世界は、本当に幸福になるのか。
葛藤は、永遠に続くかと思われた。
そして……勇者は、剣を振り下ろした。




