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作者を殺しに来る勇者

掲載日:2026/01/26

『作者を殺しに来る勇者』


 勇者は、魔王を倒した。

 世界は救われ、祝祭は七日七晩続いた。


 だが、祝福が終われば、現実はいつも同じ顔でそこに立っていた。


 幼馴染の魔法使いは、長い戦いで身体を壊し、静かに病で死んだ。

 聖女は戦士と結ばれ、幸せそうに微笑んでいたが、ある日、事故で二人まとめて帰らぬ人となった。


 勇者だけが、残った。


 剣は錆び、鎧は重い。

 嫁はいない。子もいない。腹も出てきた。

 英雄譚の『その後』に、居場所はなかった。


 それでも世界は、今日も不幸を量産していた。


「おお、勇者よ!」


 老いた国王が、玉座から声を張り上げる。


「我らを救い給え。我らの不幸を、悲しみを、すべて取り除き給え!

 これらを与える“存在”を、討伐してほしいのだ!」


 勇者は思った。

 ……それは、俺自身がずっと考えていたことだ、と。


 なぜ、世界はこんなにも不幸なのか。

 なぜ、自分だけが、こんなにも空っぽなのか。


 勇者は長い旅に出た。

 剣術ではなく、魔法でもなく、この世の秘術すべてを学ぶために。

 世界の外側。因果の裏側。

 そして、勇者は跳躍した……異世界に。


 そこにいたのは、一人の男だった。

 嫁はいない。子もいない。腹の出た、中年の男。


 机に向かい、必死にキーボードを叩いている。

『作者』だった。


「……不幸でないと、物語は読まれないんだ」


 作者は、勇者に気づき、青ざめながらも言葉を絞り出した。


「幸せだけじゃ、誰も続きを読まない。

 だから、苦しませた。殺した。奪った。

 全部、食うためだった……」


 勇者は剣を抜いた。

 自分の仲間たちの死。

 世界中に溢れる悲嘆。


 それらが、目の前の男によって『作品』として消費されていた事実。


 作者は、床に額を擦りつけた。


「頼む……!罪があるなら、俺だけを殺してくれ!

 読者を、他の作者を、世界を巻き込まないでくれ!」


 勇者は迷った。

 この男を殺せば、物語は終わる。


 だが、物語が終わった世界は、本当に幸福になるのか。


 葛藤は、永遠に続くかと思われた。




 そして……勇者は、剣を振り下ろした。

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