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21.好師匠は甘いものがお好き

 「あっ!こんなことしてる場合じゃなかったわ!」


ええ、自分は絶賛ギャン泣き中なんですが、こんな事でまとめられてしまう。これが今の毛師姉との距離感なのは致し方ない。


「何か大事な用があるんですか?」


「そりゃあそうよ!そろそろ師尊様のお食事の時間だもの!」


分かってました!敵対関係の姉弟子の所の童僕より、そりゃあ李長老が優先ですわ!


「もし、よければ何かお手伝いしましょうか?」


「結構よ!師尊様は私が出した物しか、お口にされないんだから!」


「それはもしかして?」


暗殺とかそういう話か?李長老の作る丹薬ってのはそうそう手に入らない物みたいだし、普通なら手に入れる為に懐柔するところだけど、今やぼんやりとしたお爺さんだし、手に入らないなら殺してしまえ的なあれか?


「愛よ!師尊様は私の愛のこもったお食事しか口にされないの!」


うん、ただののろけで逆に良かったわ。物騒な話なら自分にはどうにもしようがないしさ。


とりあえずやる事もないので、毛師姉に付いて行くと随分と小綺麗に整えられた厨房に着いた。


いや、やる事ないとか言わずに掃除でもしてろやとか思うかもしれないが、掃除するほど汚くないのよ。


多分だけど、この毛師姉って何だかんだ綺麗好きだし、本当に李長老を慕ってるんだと思うんだよね。


ぱっと見は細身でスタイルもいいし、若干わがままそうな雰囲気なのに、全然そんな事ないって言うか、寧ろ自分の情を大事にしつつ、人の情もよく分かる人なのかなって?


何だかんだ前の世界にいた時、自分はいつも違和感を感じてた。


なんで皆正しいかそうでないかで判断するんだろう?っていう疑問。


それがテストやAIだったらそれでもいいのかもしれないけど、人を動かすのって感情じゃない?


つまり人の基準てのはその人の品性であるべきだと思うんだよね。


品性って言うと、上品とかそういうの思い浮かべるかもしれないけど、あくまで品性なのでそれぞれの生まれ育った環境に応じた物なんだけど。


平たく言えば、美意識かな?


ルッキズムとは関係のない、自分が美しくないと思う事をやらないっていう感覚。


例えば、喧嘩っていうのは対等の者同士が分かりあえないからやるもんだから別にいいじゃんって思うけど、強い奴が弱い奴に無理やり暴力をふるうとかは美しくないじゃんみたいな感じ?


まぁ、自分もうまく説明できない程曖昧な感覚なんだけどさ。


そんなとりとめもない事を考えている内に、毛師姉があっという間に整えたご飯は、それはもう辛そう。


赤いって言うか、もはや黒い。


唐辛子唐辛子唐辛子黒酢みたいな。


その量の辛子は黒酢じゃ絶対中和されないんですけども!


一滴でも皮膚にかかれば、どんなダメージを負うか分からない兵器に戦慄しながら、謎の辛そうなスープを運ぶ毛師姉について、李長老の所へと向かう。


案の定というかなんと言えばいいのか、李長老は一言も発せず、口も完全に閉じて、静かに池を眺める。


絶対にいい顔はしないという断固とした決意を感じるし、一言でも『好』などと言えば、死ぬって言う悲壮感すら見えてくる。


「はぁ……ダメね。本当に食も細くなられて……」


細いんじゃないわ絶対。味覚が違い過ぎるんだってばよ。


「師尊様、お願いですのでこれだけでも食べてくださりませんか?」


そう言って取り出すのは杏?


と思ったら、手早く皮を剝いて捌くと、それを美味しそうに食べる李長老。


「好」


出ましたよ!要は、あの辛い物食べられないだけじゃん。


何故か、気づかわしげな顔で李長老を見つめる毛師姉にどう現実を伝えるべきか。


「あの、すみませんその杏の種って頂いても?」


「種?別にいいけど何に使うの?」


何って言うか、そりゃ食べる為に使うんだけどさ。杏仁豆腐って日本人なら誰でも知ってるよね?


「いや、この種って苦杏仁か、甜杏仁かって思って」


「えっと?」


〔これは甜杏仁で間違いなさそうだな〕


うん、システムさん超役に立つじゃん!ただの愚痴こぼし相手じゃなかった。


そんな事を考えるのも、束の間例の如く電撃が走り、脳内に杏仁豆腐の作り方が流れ込んでくる。


大本の杏仁霜の作り方が浮かんでくると、杏の種と厨房に合った材料であっという間に苦い変な粉を作り出し、生クリームがないのが残念だが、寒天を使って固められる準備をし、牛乳の代わりに羊乳や砂糖で全体的なベースを作る。


電子レンジで温めずとも、鍋を温めれば自由自在に思った温度になるし、冷やしたければ、何か謎の箱に入れて真気を流すだけで、やたらと冷える。


それこそ、4度で数時間のつもりが、そんなの関係ないとばかりにあっという間に思った状態に固まっていく不思議技術。


そして出来たのが、みんな大好き杏仁豆腐。


シロップ的な物が作れなかったので、ただの白いプリンみたいな状態で、李長老に差し出す。


すると、それまでほとんど微動だにしなかった李長老が木匙を手に持ち一気にかきこんでしまった。


ああ、やっぱり辛い物が食べれなかったんだなぁ。なんて思っていると、毛師姉に手を掴まれ、ガンぎまった目で見つめられる。


「自分何かやっちゃいましたか?」


「これからは、師尊様の為にご飯作るのよ!」


なんかちょっと……もといかなり怖いけど、これは自分に利用価値があるって認めてくれたんだよな?

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