19.お金の事
腕がだっっっっるい!
結局、陽の落ちる頃まで鍋を振り続けることになったんだが、なんか皆して辛くない食事に飢えてたらしい。
一応合間合間にいろいろ情報収集できたのだが、まずこの風塵宗ってのは修行場だってのは何となく知っていた通りだ。
その為、ここに住んでる人達の目指すところは少しでも修為を上げる事で、そうなるとできれば食事を摂りたくないらしい。
しかし現実いきなりそうもいかないので、簡単な軽食を取りつつ、徐々に木の実やなんかでしのいで、いずれは霞だけ食べてれば問題ないような体質になるのが目標なんだとか。
と、なればだ。当然ながら【厨術】なんて物を敢えて使えるようになるメリットは薄いし、料理を提供する店も必然少なくなってくる。
しかしながらこの風塵宗ってのはどうやら辺境の田舎宗派だそうで、完全に独立しているとは到底言い難く、物資の売買が無いと成り立たないとか。
つまり、髭もじゃのおっさんの様に修行が浅く、食事を必要としている人の出入りもあるという事になる。
そこで、手を挙げたのが珍しい【厨術】の使い手の沙さんだったって訳だ。
元々、家系の関係から【厨術】を学んだらしいのだが、事情があって独り立ちして店を構える必要があり、この風塵宗に来たのだそうな。
それにしても、風塵宗での主要顧客が辺境の街に出入りする商人だとするならば、痔が持病の人も多いだろうに、何で辛い物しか作れないのか聞いたところ、
「認めたくないものだな、自分自身の若さ故の過ちというものを」
何のことだかよく分からなかった。
そんなこんなとりあえず、自分が作る適当な食べ物でもニーズはあるらしく、皆して旨い美味いと食べてくれるのは、何とも悪い気はしない。
そうは言っても、子供の体だ流石に鍋を振り続ければ、そりゃあもう疲れる。
くたくたになって、適当な席でだらけていると、沙さんが何枚かの銀の葉っぱを持たせてくれた。
何か火をつける為に引き出しにつっこんだ葉っぱだったよな?
〔多分この宗の通貨だろうな〕
「(はぁ?じゃあお金で火をつけてたって事?あれじゃん。『ほら明るいだろう?』で有名なお金に火をつけて足元照らすアレじゃん」
〔そんな訳ないだろ。この宗に限らず聖域ってのは何でも霊力を動力にして動くんだよ〕
「(ああ、上位世界だから、大抵の物はあるんだっけか?)」
〔そんな所だ。霊力さえあれば大抵の事は解決できるって事は、逆に霊力は常に必須のエネルギー源になるって事だ〕
「(まぁ、前の世界で言えば石油みたいなもんだ?)」
〔燃料とはまたちょっと違う気もするが、とにかく霊力をたくさん含み、それを取り出せるなら価値とみなされるし、その取り出せる霊力の多寡でその価値の高低も決まる〕
「(つまりこの銀の葉っぱは霊力を多く含んでいて、霊力も取り出せると)」
〔間違いなくその性質のものだな。自分用の食事の材料費をどう賄うのか、目途が付いて良かったじゃないか〕
確かに言われてみればその通りである。所詮は子供のバイト料だし大した額じゃないんだろうが、それでも自由にできるお金があるのとないのとでは、大いに隔たりがある。
「ありがとうございます」
「水臭いな今更、はははははは」
何か凄く楽しそうだし、多分自分の仕事ぶりも問題なかったんだろう。
そのまま一旦すぐ前の薬会の中に入っていくと、お客さんもはけて、片付け中って感じだ。
そこになんかお疲れ気味の黄師姉が現れたので、声を掛ける。
「何か疲れてますね」
「そうなのよ。いつも大した用事でも無い人が押し掛けて来てね。丹薬士用の窓口だって言ってるんだけど、どうにも分かってもらえないのよ」
「そうですか、それじゃあご飯でも……」
「そうね!昨日は包子だったし、今日は饅頭にしようかしら!」
自分が何か作ろうか言う前に、食べる物を決めてしまったので素直にうなずいて付いて行く。
ふと、王お姉さんがこちらに手を振ったのを見て振り返すと、
「あら?もう仲良くなったのね?」
「なんかいい人だったんで」
「そうなの?確かに真面目ないい子だけど、子供好きだったのね」
王お姉さんと黄師姉って結構仲いいもんだと勝手に思ってたんだけどそうでもないのか?
いや、真面目ないい子って言ってるし評価は悪くない?つまりまぁまぁいい妹弟子位の距離感なのかな?
今一つ黄師姉の性格が読み切れない。
まだ断定するのには早いけど、李長老にしても秦師姉にしても、目上かまたは今後上に立つ人に対しては、結構従順というか、雰囲気良く接してる気がする。
つまり、自分に甘いのは秦師姉に預けられたからって可能性が高いという事だ。
そう考えると、結構野心家なんだろうな。
意識的なのか無意識なのかは分からないけど、前の世界でもそういう傾向の人っていたし、変に無償の善意を信じるよりは、十分に注意した行動を心掛けた方がいいだろう。
現状まだ錬気一級の中途半端な【厨術】使いの自分にさしたる価値があるとも思えないし、申し訳ないが当面は秦師姉と黄師姉の立場を借りつつ、お二人の邪魔をしないように行動せねば。




