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18.この世界にも職業病ってあるらしい

 沙さんに付いて行くと、髭もじゃのおっさんがひったくるように皿を奪い取り、一席を占領し、木で出来た椅子にドカッと腰を掛けた。


今すぐにでも掻き込みそうな勢いなのに、何故か手に箸を持ったまま動きが止まる。


そこからスローモーションのように箸で韮と卵を一つまみ掴み取り、舌の上に運んでいく。


「嗚呼……美味い……」


目から一筋の涙をこぼしながら、ひとつまみの韮と卵を咀嚼する。


まるで、何日も食事をしていなかったようだが、包子とか食べてたんだよな?あれも相当美味しかった気がするんだが?


「ひ、一口で?一口で撃破か!」


何か沙さんも変な事口走ってるけど、このニラタマ大丈夫なのか?変な物入ってないよな?


自分で作ってるにもかかわらず、凄く不謹慎な事を思いついてしまったものだ。


「何かしら?来るわ?」


うん、樂樂さんだっけ?この人もなんか変な事言いだしたわ。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


急に髭もじゃのおっさんが叫んだかと思うと、本当に一瞬、まばたき一回のスピードでニラタマを平らげた。


そのまま虚空を見つめ、口をパクパクさせてたかと思うと、


「米も食いたい」


ぼそっと一言呟いた。


いや、うるせぇよ。お望み通り辛くない物作って、あんたも平らげたんだからさっさと帰れよ。


「いや、うるせぇよ。お望み通り辛くない物つくって、あんたも平らげたんだからさっさと帰れよ」


あれれ~?おかしいぞ~?自分の心の声が、謎に反映されてる~?


と思ったら、声の主は楊さんだ。


何かよく見れば見る程、確かに美人だな。


小顔で細身だが、凄く健康的というか痩せてるんじゃなくて鍛えて絞られてるって感じ?


剣を片手に下げる様も随分と粋な雰囲気を出してるし、さっぱり系の洒脱な美人感って言うのか?確かにこれはもてるんだろうなって感じ。


偶にいるよね。仕事場でベテランなんだけど、誰とつるむわけでもなく、それでいて誰と仲が悪いでもなく、自己責任で何でも出来ちゃうみたいな姉御肌の人。


そういう人の下についてるかのような雰囲気に持っていくと、女社会みたいな職場でもうまく立ち回れるんだよな。


うん、何か前の世界を思い出して、エモーショナルな気分になっちゃったし、一旦髭もじゃのおっさんに集中しよう。


ってあれ?おっさん?


ふと、日が陰ったと思った瞬間、両肩を押さえられ動けなくなる。


そして、目の前には髭もじゃのおっさんお顔が、今にもキスせんばかりに迫ってきた。


本気でそういう趣味はないので、何か助かる方法を!


〔この状況じゃ無理だ。諦めろ〕


クソシステムがよ~~~~~!


「小朋友!お前は俺の命の恩人だ!」


「いや、ニラタマで命つなぐとかどうなってんのよ!」


思わずつっこんでしまったが、おかしいよな?


「小朋友には分からんかもしれんが、俺にも深い事情ってのがあるんだ」


「事情?辛い物が食べれない理由みたいな?」


「ああ、話せば長くなる。俺みたいな普通の配送業主じゃ、修行もそんなに進まないし、木の実だけで暮らすなんてのは夢のまた夢だ。旅先で何も食べれるもののない絶望、理解できなくとも、何となくは分かるだろ?」


まぁ、確かに長い旅路で食うものもないとか、やっとたどり着いた街でまともな食事にもありつけないとか、つらいか。


「でも、そんなに辛い物が嫌いなの?」


「それはさっきも言ったが、嫌いなんじゃない。食べれないんだ」


何でだろう?医者から健康上の理由で辛い物控えろって言われたとか?


「アレだな?痔なんだろ?長い距離をずっと馬車かなんかで移動してればそういう事もある。職業病だな」


うん、綺麗なお姉さんがあっさり痔とか明かすなって可哀そうだからさ。


「ああ、その姉さんの言う通りだ。頼む小朋友!毎日とは言わん!俺の為に飯を作ってくれ!」


何か昭和の俺の為に味噌汁を作ってくれみたいなノリなんだが、きっと若い子には伝わらないだろう。


「俺も協力する。君の手助けができるのは嬉しいものだ」


何か沙さんまで乗り気みたいで、面倒な事になりそうだ。


何しろ今の自分の身分は黄師姉の童僕な訳で、いつでもそんなアルバイトみたいなことができる立場でもない。


「あら?いないと思ったらこんな所に?」


王お姉さん!ってずっと目立つ場所にいたじゃんかよ!こんなに衆目に晒される場所にいたのに今の今まで気が付かなかったんかよ!


別に王お姉さんが悪い訳ではないけど、助けてほしかったわ!一応はいたいけな8歳児だっての。


中身はいい年こいたおっさんだけどな!


リアル中身は大人、体は子供だよ!どこぞの名探偵は高々17歳のくせに中身は大人とか嘯いてるけどな。


あいつすぐに真実はいつも一つとか言ってるけど、そんなのは所詮中高生の世迷い事だっての!


大人になるってのは色んな真実の全てに理や事情があるって事を受け止める事なんだよ!


結局最終回も見れずにこの世界に来ちまったけど、きっとあの17歳の小学生名探偵のラストは、真実は一つじゃないって気が付いて、18歳になるとかそんな感じだろ?


そんな事を考えてたら、いつの間にか沙さんと王お姉さんが話し込んでる。


あんな感じの変な喋り方の人なのに、王さんは意味が分かるんだろうか?いやでも王さんてこの店の常連っぽい感じだったもんな。


「まあ!小白にそんな才能があったなんて!いいわ!黄師姉には私から言っておいてあげる!」


何故かあっさりこの店でアルバイトすることが決まったみたいだ。


って言うか、自分の呼び名も変わってるんだけども、確か苗字に小ってつけるのは、何とか君みたいな目下に対する近しい敬称みたいな感じだったっけ?

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