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10.好々爺

 黄師姉に手を引かれ、湖のほとりにやってきた。秦さんは沼と言っていたが、やっぱりどう見ても湖だろ?


昨日見た時は日も沈みかけてたし、何となく緑色ってだけだったけど、明るい時間に見ると何とも不気味なほど発色のいい黄緑で落ち着かない。毒とか入ってないよな?


そして湖沿いの随分と大きなお屋敷が師匠の家らしい。


ざっくりと簡単に聞いたところ、鸚鵡緑苑に属する内門の門人達は基本的にこの湖沿いに住んでいて、湖の縁に住んでるのが、長老とか呼ばれる師匠クラスの立場の人らしい。


そしてそれぞれの師匠の弟子が、師匠の家から少しづつ輪になるように家を構えるのが基本って事だ。


まぁ、何事にも例外は存在するみたいだけど、大枠それで捉えておけば問題ないってさ。


ってな訳で、師匠宅を訪問すると出迎えてくれたのは細身の随分と見め麗しい女性だった。


「あら?黄師姉?こんな朝早くから小汚い子供を連れてどうされたのです?」


うん、小汚いのは真面目にその通りなので何も言えん。


いや、俗世の時は割とみんなそこそこ小汚かったんだけど、聖域に入ってから皆身綺麗なのよ。


生活習慣なのか、はたまたそれが聖域だという事なのか、なので何も言い返すような事は無いんだけども、同門の割に棘がないか?このお姉さん。


「この子を預かる事にしたから師匠に挨拶に来ただけよ?そういう貴女こそ朝早くから師のお邪魔をしちゃ良くないわよ?」


「あら?お邪魔なんかじゃないわ!私は師尊の身の回りのお世話をしているだけだもの!師姉こそいつも通り家で修業して、午後からはあの人の所に行けばいいじゃない!」


「あのね……そうやって口数多くて師の静謐な時間をお邪魔するのはどうなのかしら?何をするでもなく師の周りでべたべたとして、それが貴女の修業になるのかしら?」


「師姉こそ自分の修業にばかりかまけて、師尊をないがしろにしてるじゃない!」


「だから、貴女と違って大人しくてまじめな子を連れてきたんでしょ?言い合ってるだけ師のお邪魔になるのだから、通してもらうわよ」


そう言って、お姉さんを押しのけていく黄師姉は昨日までの人の好さげな雰囲気とはうって変わって、何かこの世界の人なんだなって感じ。


とはいえ、前の世界からの経験上女同士の争いごとには関わらない方がいい。男の自分には絶対解決できないし、関わったら最後大損こくのが分かりきってるから。


気持ちを切り替える為に黄師姉の師匠の家を眺めつつ歩いていると、綺麗な花がそこら中に植えられ、屋敷も小綺な二階建ての木造建築だ。


中国で二階建てとか作られたのは結構近代に近い頃だったように記憶しているが、そこは異世界のしかも聖域とかいう特殊な地域なので、細かい事は言わない。


よく見れば二階はベランダというのかバルコニーというのか、お城とかの月見台の様な造りになっていて、何とも趣がある。


そのまま家の中に入るのかと思いきや、ぐるっと回っていくと池のある庭に出た。


するとそこには、のんびりと椅子に腰かけるご老人がいる。


何で一目でのんびりと言う言葉が出てくるかと言えば、ひとえに椅子の形状の所為だろう。


竹か籐の様な素材で出来た飴色のロッキングチェアに掛けて、暑くもないのに羽扇でのんびり自分を扇いでいる。


「師匠、我が家に来た童僕を紹介しに来ました」


「好」


ハオって言ったぞこの爺さん!中国語が訳されてない!


とか考えていたら、黄師姉の視線が刺さったのですぐに自己紹介をする。


「白小青と申します」


「好」


やっぱりハオって言ったーーーー!


「私の所で預かっていますが、もし何かあれば何でも申し付けてください。子供ですが気の利く子ですので」


「好」


え?どうしよう、この爺さんハオしか言わなんだが!


「それじゃあ、行くわよ」


これだけで、この場を退散することになり家に帰った。


師匠の家を出る時、さっきのお姉さんの視線も気になったが、あえて目でも合わせればとばっちりでも食らいかねないので、全力で無視させていただいたのは言うまでもない。


「師匠って、ハオしか言わないんですかね?」


「そうねぇ、ここ数年はそんな感じよ」


なんだろ?昔はそうでもなかったって感じだけど。


「察しのいい小青だから気が付いたかもしれないけど、師は先が長くないのよ」


「そうなんですか」


「ええ、この風塵宗の丹薬師で築基期ともなれば腕は立つし、長年宗派を支えてきた人物なんだけどね」


なんか物思いにふける風だから、そっと立ち去ろうと空気を読み、自分の部屋の方へと方向転換する。


「元々、仁に篤いので有名で、宗内に慕う人も多くて……」


うん、まだまだ全然話したりないっぽいので、とりあえず聞き役位に徹する。


「うんうん、そうですか、なるほど、それは素晴らしいですね」


「そうなよ!だから絶対あの女だけはダメ!ろくに修行もしないのに、師の跡目だけを継ごうなんて言う、ああいう女だけは絶対に師に近づけちゃダメなの!だから、小青が割って入るのよ!」


「え?そういう話?」


「そうよ!ちょっと難しかったかしら?じゃあ最初から話すわね!」


「あ、いえ!分かりました!あの女は口ばっかりで何もしないから、自分が実際に師匠の世話をして、あの女との差を分からせてやればいいんですね!」


「そう!そういう事よ!師の跡は私が継ぐの!師ももって20年だもの!正念場よ!」


結構先長いじゃんかよ!

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