1.プロローグ
氷河期世代は本当に可哀そうなのか?
就ける仕事が少なく、能力に見合った就職はかなわず、給料も少なく、結婚も出来ないなんて声を耳にするようになった。
しかしその世代の中で生きてきた自分としては、何でいまさらそんな事を言うのだろう?と疑問に思うばかり。
確かに給料はいいと言えないし、将来が明るいとも言えない、結婚もしてないし、もちろん子供もいない。
でも、生来自分を追い込むような努力が苦手な自分からすると楽な時代だった気がする。
別に高望みをせず、無理もせず、程々の会社で普通に真面目に仕事していれば、普通に評価されて普通に暮らせる。それの何が可哀そうなのか?
寧ろ最近の若い人達の方が、キャパギリギリの仕事をさせられているように見えて、可哀そうにすら見える。
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なんて、そんな達観した事を思えるようになったのは40過ぎてからの事。
30代までの自分は可哀そうとこそ思わないまでも、もう少し何とかなる筈だと消化しきれない気持ちを抱いていた。
何だかんだ子供の頃に思い描いていた生活との違い、急速に広まったSNSの所為で感じる自分と他人との差。
自己啓発に引き寄せに神頼みと、他力本願の幸せを願い続けて、ある時悟ってしまった。
今の生活が自分に分相応なんだっていう事実を何となく受け入れられる時が来てしまった。
それからは、散々してきた神頼みの延長線上とでもいうのか休日にふらっとお参りに行く程度で、何かを望むという事は少なくなった気がする。
仕事にもすっかり慣れて、どんなピンチもピンチと感じない程度には心が磨滅してしまったし、何かを新しくやろうなんて気も起きない。
ただただ平和で何事もなく、のんびり過ごせればいい。
太陽や神社の神様やご先祖様に今日もありがとうございます。ってい言える程度の平和な日々が続けばそれでいい。
面倒な事はすべて投げ出して、出来る事をできる範囲で普通にやって、見栄を張らず、肩ひじ張らずに生活すれば、これ以上に幸せな事は無い。
そう思ってたはずなのに、
ある日曜日の事、一時間ほど散歩しつつ、いつもの地元の神社に辿り着いた。
いつも通り、お稲荷さんから順にお参りし、いつも通り今週も無事でしたありがとうございますと伝えた。
ただ何の気の迷いだったのだろう?
鳥居をくぐる直前に、ふと拝殿を振り返り、
「神様は無情だ」
普段絶対口にしない様な一言が零れ落ちてしまった。
『じゃあ、お前が神になればいい』
「は?」
どこからともなく聞こえた声に反応した瞬間、視界が真っ暗になる。
ああ、まずい……ISOの内部監査が近いのに資料作り終わってない。
意識が途絶える寸前に考えていたことは、あまりにもしょうもなく。我ながら自分らしいとしか言いようが無かった。
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剣を一本携えた粗末な服の老人が、ぼんやりと池の中を覗いている。
「あ~死んでる死んでる。今年は飢饉か何かだったのか俗世の方は?ちょっと間が悪いな~あと100年くらい待った方が?あっいや!こういう時だからこそ程よい死体も見つかるってもんだし、思い立ったが吉日だよな!」
真っ白な髪や長い髭からは想像できない粗野な言葉遣いだが、よく見れば顔にしわも見当たらなければ、いっそ表情すら抜け落ちている。
そしてその一見粗野な言葉もただ習慣でそのような言葉遣いをするだけで、何ら感情もないのがいっそ不気味。
「おっ!早速見っけ!荒古聖体じゃないか!いきなり聖体引くとかやっぱりため込みにため込んだ俺の気運も馬鹿にならねーって……レアならいいってもんじゃないんだよな~次は剣なんてやる気はないんだし、この手の肉体的な修養に有利なタイプはいらん」
妙にぶつぶつと独り言が多いのはやっぱり老人ぽいのかもしれない。
「ったくよ!誰だよ剣は修仙の大道とか言ったやつ!確かに修為を越えて戦えるし、若い頃は、はまったって言うか、それしかなかったけど、結局その末路がこれだもんな~……あれ?それ言ったの俺じゃねーか?……うわー黒歴史だ。そうだあのハゲに挑発されて適当ぶっこいたんだった!あ~クソ!ダメだ歳の所為か昔の事ばっかり思い出しちまう。昨日食った飯すら思い出せねーのに!いやここ1000年は霞食ってるんだから、昨日の飯も霞か」
小一時間も虚空を見ていたかと思ったら、再び池に目を向ける。
「玄陰体質の女に天霊根の女、それに上古聖体の女っと、はい!ダメー!どいつもこいつも美人ばかり!俺も5000年か生きてるが、美人ってのは大体天意か悪意かその両方が絡むし、碌な目に合わないんだから絶対無理!次にイケメンお前もダメだ。口うるさい爺ぃと婆ぁもダメ!付き合うなら地味な兄ちゃんか稀にいる物分かりのいい年増なんだよ!って待てよ?5000年前はアレだ変な美人と毒薬作ってたし、俺もっと長生きだったか……?いいやいいや!年齢数えるなんて人斬った数を数えるくらい無駄だわ」
何に対して怒っているのか、うっすらと感情の残滓のような物を感じさせた。
「ん~凡骨に中品五霊根のガキがいるじゃんか。何だろうなこの運からも不運からも見捨てられた感じ。子供ならもう少し可愛げがあってもいいのに、全く印象に残らない程の地味な顔立ち、享年4つかぁ……無理に再生させてもすぐに死んじまうか?いや、俺の気運をぶち込んどけばいけるだろ。こんな何の特徴も無い感じなら逆に魔宗からも狙われないだろうし、人面獣心の正派だって興味は持たない筈。だがせめて体質だけは何とかしないと厳しいか?よし!久々に俺の厨術の出番だな!本当は剣じゃなくて厨の道を行きたかったんだから!願わくば来世で厨の道を選ぶような飛び切りの飯を用意してやろう!」
手を一振りすれば池の周り一面に広がる天材地宝と不気味な異物。
「何で俺5000年以上生きてきていまだに整理下手なんだろうな。これも来世の目標にしよう!とりあえずこの辺の宝物はいらん!狙われるだけだ。むしろこっちだこっち!」
煌びやかに輝く天財地宝を池に投げ込み異物をひょいひょいと拾い上げていく。
「まずは地獄の毒沼に住む竜の肉がいいだろう。あれは確か元々はただの化け蛙だったし、味はいい筈!
そこに俺が各地聖域の化身期すら食らう五毒大帝を殺して作った五味調味料でスパイシーに仕上げる!これで、あらゆる毒気や魔気を吸収して強化される肉体が出来るだろう!どうしたって力がものを言う世界だし、修為が上がりにくくとも身を守るすべは重要だ」
更にそこらに在る異物を品定めしていく老人。
「おっと!虫の帝を忘れてた!山一つを覆い、竜すら食らう金蜻蛉の目!これは隠し味に最高だ!こういう一手間で違いっつうか深みが出てくるんだよな~!」
高笑いしながら、その後も異物を集めヒョイッと空中に投げると老人の体から湧きだす金色の炎がそれを取り巻く。
「好!」
言うが早いか、炎から取り出した物を池に投げ込むと、先程まで眺めていた子供の手に収まる。
「さて、後は俺の気運を全部ぶち込んでっと……。俺の命を捧げる。『輪転輪の術』来世の俺が悟りの種を得たら発動して、あのガキの体に魂をぶち込め!頼むぜ~!来世の俺!次こそは不死者になろう」




