愛の旋律、そして未来の約束
世界の「音」を調律し、指揮者としての役割を果たしたルナは、安堵の息をついた。空に浮かぶ都市は、透明な光を放ち、まるで世界中を祝福しているかのようだった。ヴァレリオが消滅した後も、彼の悲しみと絶望が魔力となって世界を覆っていたが、ルナの「恋の旋律」によって、そのすべてが浄化され、世界は再び希望に満ちた「音」を取り戻していた。
だが、ルナの心は、まだヴァレリオの悲しみを完全に癒やせていなかった。ヴァレリオの無音の譜面は、ルナの心の奥底に残り、彼女の「恋の旋律」と共鳴し続けていた。それは、まるで彼がルナに最後の「調律」を託したかのようだった。
「ルナ、疲れただろう。もう、休んでいい」
ノアが、優しくルナの肩を抱き寄せる。彼の無音の譜面が、ルナの譜面を静かに包み込み、彼女の心の負担を軽くしていく。その優しさは、ヴァレリオが孤独に抱えていた悲しみとは対照的で、ルナの心に温かい光を灯した。
「ノア……。私、ヴァレリオを完全に救ってあげられなかった。彼の悲しみは、まだ私の心の奥に残っている」
ルナの声には、後悔と、そして愛する者を失った者だけが持つ、深い痛みが滲んでいた。
「違う。君は、ヴァレリオを救った。彼は、君の調律によって、最後に愛を知ることができたんだ。そして、彼の最後の『音』は、君の無音の譜面に、愛の旋律として刻まれたんだ」
ノアはそう言うと、ルナの額にキスをした。彼の無音の譜面が、ルナの「恋の旋律」と深く重なり、二人の心が一つになる。それは、言葉を超えた、二人だけの**「愛の旋律」**だった。
その瞬間、ルナの無音の譜面から、新たな「音」が生まれた。それは、ノアの愛と、ヴァレリオの悲しみを調律し、昇華させた、ルナだけの**「愛の旋律」**だった。その旋律は、魔力塔から光となって世界中へと拡散していく。ヴァレリオの悲しみの「音」は、ルナの「愛の旋律」に触れるたびに、徐々に温かい色を取り戻していく。歪んだ紫色の魔力は、透明な光へと変化し、人々の心の譜面を優しく撫でるように調律していった。
「すごい……。世界の譜面が、完全に調和している。ヴァレリオの悲しみが、ルナの愛によって、癒やされていく」
カイルが、驚きと感動の入り混じった表情でルナを見つめる。彼は、ルナの調律師としての才能が、想像を遥かに超えたものであることを改めて確信した。そして、彼は、ルナが創り出す新しい世界を、自身の薬学と魔術で支える「副指揮者」として、彼女の隣に立つことを決意していた。
