表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月奏の調律師 〜無音の旋律は恋を知らない〜  作者: 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
壊れた譜面を調律する、私のこの手が震えるほどの恋心
35/50

多重共鳴都市、四重奏詠唱

南方の空に浮かぶ都市リュミナ・ヴェール

それは、魔力塔の共鳴によって空中に維持される、音楽魔術の実験都市だった。

だが今、その都市は“音の暴走”に揺れていた。


都市全体の譜面が、同時に複数の旋律を奏で始めていた。

感情譜面、記憶譜面、空間譜面、そして――意志譜面。

それらが互いに干渉し、共鳴し、暴走していた。


「……これは、譜面の自律化現象」

協会の解析官が、空間に浮かぶ譜面を指差す。

「都市そのものが、意思を持って音を奏で始めている」


ルナ・ミレイユ=クラウスは、都市の中心に降り立った。

彼女の譜面は、淡い金と緑に染まっていた。

それは、進化と育成の旋律。


ノアが、彼女の隣に立つ。

彼の譜面は、深い青と銀に揺れていた。

それは、支える者が“共鳴者”へと進化した証。


「君の音が、世界を目覚めさせた。

でも、都市は……自分で譜面を奏でようとしてる」


ルナは、都市の空間に耳を澄ませた。

風の音、建物の震え、人々の感情――

それらが、同時に複数の譜面として浮かび上がっていた。


「……これは、四重奏。

でも、調律されていない。

だから、都市が崩れかけてる」


彼女は、ハーモナイトを手に取った。

だが、通常の召喚では届かない。

空間が、音を拒絶していた。


「なら、私たちの譜面を重ねる。

四重奏詠唱、開始」


ルナとノアの譜面が重なり、共鳴を始める。

そこに、都市の空間譜面と感情譜面が加わる。

四つの旋律が、同時に響き始める。


「召喚――Spanky and Our Gang《Give a Damn》」


空間に、力強くも優しい旋律が広がった。

現実世界の60年代ソフトロック。

社会と個人の感情を繋ぐ、誠実で情熱的なコード進行。

それは、都市の感情を再構築する“共鳴の音”だった。


譜面が震え、都市の空間が整い始める。

建物が安定し、人々の感情が澄み、魔力塔が静かに脈動を始める。


ルナの譜面が、虹色に染まる。

それは、すべての音を受け入れた証。

それは、調律師が“世界の音の自律化”に触れた瞬間。


ノアの譜面も、深い銀から透明へと変化する。

それは、支える者が“音の一部”になった証。


「……都市が、自分で音を奏でてる。

でも、君の譜面が、その旋律を導いてる」


ルナは、都市の中心に立ち、静かに呟いた。

「調律、完了。

《リュミナ・ヴェール》、共鳴安定」


その夜、都市の空には、穏やかな旋律が漂っていた。

それは、都市が自ら奏でる音。

それは、世界が“調律師を必要としなくなる”未来の前兆。


ルナは、ノアと並んで都市の塔に座っていた。

「私の譜面は、もう導くだけじゃない。

これからは、聴くことも必要になる」


ノアは頷いた。

「君の音は、世界に響いた。

でも、僕は……君の音を、ずっと聴いていたい」


そして、二人の譜面に、淡い白が差した。

それは、沈黙の完成。

それは、恋と音楽が融合した“永遠の旋律”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ