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月奏の調律師 〜無音の旋律は恋を知らない〜  作者: 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
壊れた譜面を調律する、私のこの手が震えるほどの恋心
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音の異変、旅の序章

魔術師協会セレスティア・コンコルドの報告室には、世界各地から届いた“音の異常”に関する報告が積み上がっていた。

魔力塔の旋律が不規則に揺れ、感情譜面が突然沈黙する現象。

一部の地域では、譜面が“逆再生”のように歪み、過去の感情が空間に漏れ出しているという。


「これは……幻奏の残響とは違う。

もっと根源的な、音の構造そのものが揺らいでいる」

協会の解析官が、譜面を指差しながら言った。


ルナ・ミレイユ=クラウスは、報告書を静かに読み込んでいた。

彼女の譜面は、白く、静かに震えていた。

それは、沈黙の中にすべての音を含む“完成された譜面”。


「……これは、世界の“音の根”が乱れている。

調律だけでは届かない。

もっと深い場所に、音の歪みがある」


ノアが、彼女の隣に立つ。

彼の譜面は、淡い青に揺れていた。

「君の音は、世界を整えた。

でも、今度は……世界の奥に潜る必要がある」


協会幹部が、ルナに向かって言った。

「君に、再び旅を依頼したい。

この異変は、魔力塔の構造を超えて広がっている。

調律師として、音の起源に触れてほしい」


ルナは、静かに頷いた。

「私は、調律師。

でも、譜面は表層だけでは響かない。

音の根に触れるためなら、どこへでも行きます」


その夜、学院の屋上でルナは月を見上げていた。

譜面は、白から淡い銀へと変化していた。

それは、未知への覚悟。

それは、旅の前奏。


彼女は、ハーモナイトを手に取り、静かに呟いた。

「召喚――The Millennium《The Island》」


空間に、静かで幻想的な旋律が広がった。

現実世界の60年代ソフトロック。

孤独と再生をテーマにした、深いコード進行と詩的なコーラス。

それは、旅立ちの者に寄り添う“孤高の音”だった。


譜面が揺れ、空間が震え、感情が整っていく。

ノアが、彼女の隣に座る。

「君の譜面は、もう完成してる。

でも、僕は……その音の続きを聴きたい」


ルナは、彼の言葉に静かに微笑んだ。

「ありがとう。

あなたの譜面が、私の旋律を支えてくれる」


そして、彼女の譜面に、淡い金が差した。

それは、旅の音。

それは、再出発の旋律。

それは、恋と音楽が共鳴した“新章”の始まりだった。


翌朝、学院の門が開かれた。

ルナは、ハーモナイトを胸に抱き、ノアと共に歩き出す。

その背中に、学院の譜面が静かに重なっていた。


カイルは、薬草温室の前で手を振った。

「次は、毒じゃなくて“音”を調律してこいよ!」


レオンは、塔の上から見下ろしていた。

「完璧な譜面なんて、存在しない。

でも、君の譜面は……世界に触れる力を持っている」


ルナは、振り返らずに歩き続けた。

その足音は、譜面のように静かで、確かなリズムを刻んでいた。


それは、見送る音。

それは、信頼の旋律。

それは、調律師が“世界の奥”へと向かう旅の序章だった。

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