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月奏の調律師 〜無音の旋律は恋を知らない〜  作者: 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
恋を知らない私の無音が、あなたの旋律と共鳴した日
18/50

調律師、旅立つ

学院の門が、静かに開いた。

それは、別れの音ではなく、始まりの旋律だった。


魔奏病の調律を終えたルナ・ミレイユ=クラウスは、魔術師協会からの正式な依頼を受けていた。

「辺境の地に、濁りが残っている。君の譜面なら、調律できるはずだ」


協会の使者の言葉に、学院の空気がざわめいた。

ルナは、世界を調律した“月奏の調律師”。

だが、彼女自身の譜面は、まだ完成していない。


「……私の始まりの場所。なら、私が終わらせる」

彼女はそう呟き、ハーモナイトを胸に抱いた。


学院の中庭には、見送りの旋律が漂っていた。

学生たちの譜面が揺れ、感情が色づく。

喜び、寂しさ、憧れ、そして――恋。


ノアが、静かにルナの隣に立った。

彼の譜面は、いつも通り無音だった。

だが、ルナの譜面と重なったときだけ、微かに震える。


「君の音は、僕が守る」

その言葉に、ルナの譜面が淡く揺れた。


カイルが、荷物を抱えて駆け寄ってきた。

「俺も行く! 毒草の調査は、薬術師の仕事だ!」

彼の譜面は、熱く、乱れていた。

だが、そこには確かな“想い”があった。


「君の音は、俺の譜面を整えてくれる。だから、俺も君を支える」


レオンは、少し離れた場所から見つめていた。

彼の譜面は、完璧すぎて共鳴しない。

だが今は、微かに揺れていた。


「君の譜面は、完璧じゃない。でも、美しい。……僕は、それに嫉妬してる」

彼の声は、静かだった。

だが、その譜面には、確かな“共鳴の予兆”が宿っていた。


ルナは、三人の譜面を見つめた。

無音の共鳴。

熱の感情。

冷静な揺らぎ。


そして、自分の譜面。

「……私は、調律師。世界を整えたけれど、まだ“私自身”を調律していない」


彼女は、ハーモナイトを空に掲げた。

空間に、淡い旋律が広がる。

それは、旅立ちの音。

それは、再生の前奏。


「召喚――Spanky and Our Gang《Sunday Mornin’》」


空間が、静かに震えた。

現実世界の60年代ソフトロック。

柔らかなコーラスと、穏やかなコード進行。

それは、旅立ちの朝にふさわしい旋律だった。


空気が澄み、譜面が整っていく。

学院の空気が、静かに色づいた。


「……この音は、私の心の底にあった」


ノアが頷く。

「君の譜面は、沈黙の中で響いてる」


カイルが笑う。

「静かすぎて、逆にうるさいくらいだな」


レオンが呟く。

「……その音に、僕も触れてみたい」


学院の門が、静かに開いた。

それは、調律師の新たな旅の始まり。


その夜、ルナは月を見上げた。

「……私の譜面は、まだ完成していない。

でも、誰かと重ねることで、きっと響く」


そして、彼女の譜面に、深い銀色が差した。

それは、沈黙の強さ。

それは、旅立ちの覚悟。

それは、恋と再生の旋律だった。

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