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月奏の調律師 〜無音の旋律は恋を知らない〜  作者: 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
恋を知らない私の無音が、あなたの旋律と共鳴した日
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God Only Knows、あなたの旋律

世界調律の場は、静かに震えていた。


魔奏病の拡大により、各地の魔力塔が沈黙し、都市の旋律が濁り、村々の感情が崩れていた。

魔力と感情がリンクするこの世界で、“音の死”はすなわち“心の死”を意味していた。


ルナは、魔術師協会が用意した巨大な調律空間の中心に立っていた。

空中には数百の譜面が浮かんでいる。

それぞれが、魔奏病に侵された者たちの“心の旋律”だった。

濁り、裂け、沈黙し、時に悲鳴のように震えている。


「……これが、世界の濁り」


ルナは呟いた。

彼女の譜面は、無音だった。

だが今、彼女はその無音を“音”に変えようとしていた。


ハーモナイトが震える。

彼女は、召喚した。


The Beach Boys – “God Only Knows”


その旋律は、空間に広がった。

柔らかなハーモニー。

愛と祈りのコード進行。

音楽が、魔力の譜面として具現化される。


空気が震え、色彩が戻る。

魔奏病患者たちの譜面が、静かに反応し始める。

濁っていた旋律が、少しずつ澄んでいく。

感情が、音に変わる。


「……これは、愛の音?」


ルナは、初めて“恋”という感情を音で理解した。

彼女の譜面が、震えた。

無音だった譜面に、淡いピンクが差す。

それは、恋の色。

それは、共鳴の証。


ノアの譜面が、静かに重なる。

「君の音は、僕にだけ聴こえる」


レオンの譜面が、遠くから揺れる。

「君の旋律は、完璧じゃない。でも、美しい」


カイルの譜面が、熱く響く。

「俺は、君の音に惚れてる!」


ルナは、三人の譜面を感じながら、旋律を奏で続けた。


God only knows what I'd be without you


その歌詞が、魔力の譜面として空間に浮かび、世界を包み込む。

魔奏病患者たちの譜面が、一斉に震えた。


涙のような旋律。

それは、感情の再生。

それは、魔力の浄化。

それは、世界の調律。


その瞬間、ルナの譜面が、完全に“音”を持った。

無音は、恋の旋律に変わった。

彼女は、初めて“愛”を奏でた。


だが、空間の奥で、まだ濁った譜面が震えていた。

それは、ルナ自身の過去だった。


辺境の薬草村で、家族を失った日。

魔力暴走の記憶。

誰にも理解されなかった“無音”の譜面。

それらが、今も彼女の旋律の底に沈んでいた。


「……私は、誰かを愛していい存在なの?」


ルナは、問いかけた。

だが、答えは音楽がくれた。


God only knows what I'd be without you


その一節が、彼女の譜面に染み込んだ。

無音の底に、光が差した。


ノアが、そっと手を差し伸べる。

「君の譜面は、誰よりも美しい。だから、僕は守る」


レオンが、静かに言う。

「君が選ぶ旋律が、正解だ。僕は、それに共鳴する」


カイルが、叫ぶ。

「ルナ! お前の音は、俺の心を動かした! それだけで十分だ!」


ルナは、涙を流した。

それは、悲しみではなかった。

それは、旋律だった。


その夜、ルナは月を見上げた。

「……私の譜面は、もう無音じゃない」


ノアが隣に立つ。

「君の音は、世界を変えた。でも、僕には、最初から聴こえてた」


ルナは微笑んだ。

そして、彼女の譜面に、虹のような色が差した。


それは、愛と希望の旋律。

それは、世界を包む音。

それは、彼女が“恋を知った”証だった。



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