僕は村人たちから感謝される
やっとNPC達が登場します。
僕たちは村の入り口にやって来た。そこには質素な作りだが大きな木の門が立っていた。何かを警戒するかのように門は堅く閉ざされていた。しかし村の周囲を囲う塀が無い。ただ門があるだけだ。本当ならば門からぐるりと頑丈な木の塀が村を囲んでいるはずだったけど、まだ作っていなかった。
大きな門の上には見張りが二人、僕達の様子をうかがっていた。
「お前たちどこから来た」
見張りの一人がそう言った。あまり歓迎されていない様子だ。
「東からだけど」
僕が返事をすると見張りの二人は何やら小声で話し合った。
「近頃東の森には魔物が出る。逸脱者の噂も聞こえてきている。お前たちは森を抜けて来たのか」
逸脱者? 何だろうそれ。
「そうだけど。逸脱者ってなに?」
「しらないのかお前たち。あり得ない力を持った怪物だ。噂だけどな」
「おい、あまりしゃべるな」
そう言ってもう一人の見張りが割って入る。
「お前たち怪しいな。そんな軽装で森を抜けてきただと。村に入れる訳にはいかないな」
ゲームのNPCたちは、塀が無いことを認識していない。塀があるものとして行動しているんだ。そのようにプラグラムが組まれている。
「行こうっ、ハル」
そう言って美崎は僕の腕を引いて門の横の何もない所から村の中に入った。
「おい、お前たちどこから入った」
見張りが驚いて叫んだが、次の瞬間もっと驚いた。
「なにぃぃぃっ!! 塀がなーぁぁぃっ」
僕達が通り過ぎたことで、塀が無いことが認識されたんだ。
「なんで今まで気が付かなかったんだーぁぁぁ!! これじゃあ村が守れなーぁぁぃっ!!」
周囲の村人たちもこの状況に気がついて騒ぎ出した。
「塀くらいならばわたしが作れるわよ」
そう言うと美崎は開発画面をだしてプログラムをいじり始めた。
ゲームデザイン用のCADを起動して、作りかけの村をロード。パーツパレットから木の塀を選択して、村を囲むように配置。
美崎は手際よく作業を進める。
完成した村データーをプラグラムに流し込んで再起動。
開発画面を閉じると、それまで止まっていたゲームの世界が再び動き出した。
すると美崎に神に祈りを捧げるムーブが入る。胸の前で両手の指を組み合わせ、跪いて天を仰ぐ。
「ルーメンの神よ。私に力をお与え下さい。この村に強固な守りを」
そう言って美崎は立ち上がると天に両手を差し出した。
空が光り輝くと天から大きな木の杭が何本も降り注ぎ地面に穿たれる。
その杭の間に分厚い木の板が何枚も積み重なり間を埋めて行く。
最後に鉄の楔が木材を固定した。
「おぉーっ。これはまさしく神の奇跡」
村人たちが僕達に跪く。
村の家々もひどい有様だ。空中に屋根が浮き、壁がほんの一部しか無くて中が丸見えな家があったり。存在しない二階の床の上を浮くかのように人が歩いている家が有る。こんな状態を人々が認識したら屋根が落ちたり家が崩れたり、二階から人が落下してしまう。
僕達は手分けして、村の完成を急いだ。
「パパ。おうちの壁がきれいになった」
「床がピカピカになったわね」
村人たちにとっては、古い家がリホームされた認識だった。
「あなたたちのおかげです。わたしの家を直してくれて有難うございます」
村の人たちが次から次へと僕達に感謝の言葉をかけ頭を下げてくる。
そこへ若者を数人引き連れて、一人の老人がやって来た。
分かってる。このキャラは村長だ。
「聖なるお方よ。わしはこの村の村長ですじゃ。この度の奇跡、村を代表して御礼を申し上げますじゃ。ここでは何ですから是非村役場へ」
僕達は村役場の村長室に通された。
長方形の小ぶりな木のテーブルを真ん中にして、向かい合うように質素なソファーが置かれていた。
僕たちはそこで村長と話をした。
「東の森に現れたオークたちを討伐したですと」
「はいこの通り」
僕はオプション画面からオークの牙がたくさん入った袋を選択して、手の中に装備する。
オプション画面を閉じると、僕に懐からオークの牙がたくさん入った袋を取り出すムーブが入る。
「おぉーこれはこれは。これほど沢山ものオークを狩るとは。いやいや、大層な力をお持ちじゃ。これならば逸脱者にも対抗出来るかも知れんのう」
逸脱者。まただ。このゲームにそんなものはつくっていない。
僕は美崎と顔をみあわせた。
「逸脱者って何なんですか? その、わたしたちまだこの土地に来たばかりで」
美崎が聞いてみた。
「わしもよく知らんのじゃよ。噂だけでのぅ。ただ事実のようじゃ。ここは辺境の村じゃが、かつてはそれなりに人々の往来が有ったものじゃ。東西の街道の上にあるからの。時には貴族が視察に訪れる事も有ったのじゃ。しかし今では殆ど誰も訪れなくなっての。街道を行き交う人々が極端に減ってしまったのじゃ。これまで見たことも無い魔物がそこいら中をうろつき回るようになっての。その頃からじゃよ。逸脱者の噂が聞こえ始めたのは。逸脱者はこの世の摂理を超えた力を持っとるらしい。魔物を作り出しているとの噂もあるんじゃからの。この世界ではあり得ない、この世から逸脱した存在。それが逸脱者じゃ。そして奴が望んでおるのはこの世界の破滅と噂されておるんじゃ」
この世界を超えた力を持つ何かが、この世界を破壊しようとしているのか。
どう言う事だろう? そんな設定はこのゲームに無いし。
「ミサはどう思う?」
そう言うと美崎は設定画面を開いてゲームを止めた。NPCの前で話す内容から外れる話題だったからだ。NPCの振る舞いにエラーを発生させる恐れがある。
「逸脱者ってわたしたちに似ていない」
「確かにそうだね。でも、ゲームを壊すなんて事はしないよ」
「もちろんよ。思い出して。わたしたちのゲームが勝手にいじられていたよね」
「そうだったね。パラメーターがめちゃめちゃにされてたって言う」
「そうそれよ。きっと誰かがわたしたちのようにゲーム世界に入り込んでるんだわ」
「もしかしてハッカー」
「あり得るかも。でもゲームのいじられかたが素人ぽかったのよ。ハッカーとも違うかも」
見たことも無い魔物か、新しいモンスター。……って。
「まさかそんな事……」
「そんなこと無いわよ。きっと」
美崎がとっさに僕の考えを引き継いで否定する。
「そうだよね。みんなで頑張って作って来たんだものね」
「そうよ。別の誰かよ」
「だとするいったい誰が」
「わからないわ。不思議よね」
「とにかく、もっとこの世界の事を調べないとね」
僕はオプション画面を閉じた。中断していたゲームが動き出す。
「僕たちは布教活動をしながら逸脱者についても調べてみますよ。今の状況を何とかす方法を見つけてみます」
「おぉ。そうして頂けますかな。あなた方でしたら、何とも心強い。しかし、くれぐれもお気をつけ下され。逸脱者の力は計り知れぬ物ですからのぅ。そうじゃ、貴族が滞在するための建屋がこの敷地に有りましての。そこを使い下され。いえいえ、遠慮には及びませぬ。今となっては使う者がおりませぬからのぅ」
そんな村長の計らいで僕たちは、特別ゲストとして、貴族の建屋に案内された。
建屋は屋敷づきのメイドさんが何人もいてぼく達の身の回りを世話してくれると言う事だ。
一つ気になっているのはメイドさん達ががぼく達の事を奥様、旦那様と呼んでいることだった。
「これ、チャットAIPにおまかせで作った箇所なの。後で調整しようと思ってたんだけど、今はネットにつながってないから、わたしじゃちょっと難しいかな」
美崎はそう言った。
そしてその夜、僕たちは寝室に通された。
寝室の真ん中には、お城に有るような天蓋付きの豪華なベッドが置いてあった。とても大きくて、大人が四人は寝られそうだ。
ただしかし、ベッドは一つだけだった。
しかも、掛け布団もベッドよりも大きな羽毛布団だけれども、これも一つだけ。
「一つのベットに一つのお布団。一夜をともにする……」
そう呟きながら、美崎の顔が真っ赤になってゆく。
「僕、床に寝るから」
僕はとっさに言った。しかし。
「大丈夫よハル。一緒に寝ましょう」
美崎は突然開き直ったかのように言ってきた。
「えっ!! いやそれは……、その……、なんて言うか……」
「本当、大丈夫よ。だってこのゲームに今ハルが考えているようなムーブは組み込んでないから。それにほら、こんなに大きなベッドだし、離れて寝ればいいだけだよ。ハルを床になんて寝かせないからね」
親しき仲にも礼儀有りだったか何だったか。
僕たちは大きなベッドの端と端で、互いに背中を向けて寝ることにした。
その夜僕たちは、同じ夢を見た。
広い丘の上に立てられた僕たちの家。日当たりのいい庭がひろがって、様々な草花が咲きみだれている。
そこには一人の可愛らしい女の子が花で髪飾りを編んでいた。年齢は小等課くらいだろうか。フワリとした銀髪に近い金髪。瑠璃色に輝く瞳。まるでファンタジー小説に描かれているかのような女の子だ。それでいてどことなく、僕と美崎の面影があるような。
少女は僕たちを振り返ると笑顔いっばいに駆け寄って来た。
「パパ。ママ。みてみて、この髪飾り。一緒に作ろっ」
少女はそう言いながら僕達に飛びついてきた。
「パパ。ママ。もう朝よ。起きて遊ぼ」
背中を揺する小さな手と女の子の声。僕と美崎は同時に起きて顔を見合わせた。
二人の間には、夢で見た可愛らしい少女が嬉しそうに笑っていた。
「僕達の子」「わたしたちの子」
僕達は同時にそう言いながらもう一度顔を見合わせた。
この世界では、14歳からが準成人で、16歳からが本成人。16歳になると、親の同意書無しで結婚可能。
でも、お酒は20歳になってから。
たばこなんて有りません。




