僕は自分の姿を見失う
セーブはこまめにした方が良いかもなお話しです。
森林を抜けると途端に視界が開けた。森に入る前の平野とは違って、そこにはなだらかな丘陵地帯が広がっていた。
西に向かう一本道は、丘を縫うように見え隠れしながら小高い丘の向こうに消えている。
すると突然、美崎はこらえきれないように笑い出した。
「キャハハハ。あー楽しかった♪ さっきのオークたちの顔みた?」
「見た見た。とんがってた目がまん丸に変わってたよ。恐怖が顔に張り付いてた」
僕も美崎と同じく、嬉しさで笑いたい気分だ。
「そうそう。わたしたちを何度倒しても、もっと強くなって戻って来るんだもの。最後は絶望してたわよ」
振り向くと僕たちの戦いの場となった森林は倒木が折り重なりすっかり荒れ果てていた。
まさしく森林破壊!!
「やったね」「やったやった」
まさに達成感! 僕たちはハイタッチする。
「あぁー。でも私、まだ暴れたりないわ」
「僕もだよ」
「ねえ。この先の村に悪い人たちいるかな」
「いるかもね」
「いたら全員やっつけようよ」
「そうだね。抵抗したら村ごと吹っ飛ばしてやる」
つって、何だろう? この荒々しい気持ちは。僕たちこんなキャラだっけ。
「ねえミサ。そこで僕たちのステータスを確認してみない?」
僕は腰を下ろすのにちょうど良さそうな、丘の斜面を指さした。
初夏の風がそよぐ丘の道。頭上には青空が広がり、足元では小さな蝶たちが戯れている。
僕たちは、丘の斜面に肩を並べて寝転んで、オプション画面を開いた。
最初に画面に現れたのは。称号。
「森林デストロイヤー」
「オークスレイヤー」
「憤怒と笑顔の戦闘マニア」
画面の右上には
「新しいサブクラスが開放されました」
の文字。
「あらハル。新しいサブクラスだってよ」
「どれどれ。見てみよう」
僕たちのクラスは変わらず駆け出し伝道師なんだけど、サブクラス画面に切り替え可能になっている。
スルッと画面をスライドさせると、そこに書かれていたのは。
「闘神バーバリアン」(憤怒発動中)
オークが潜む森の攻略では、ひたすら力に頼った。そのプレイスタイルが僕たちゲームキャラクターに反映されたんだ。
バーバリアンは憤怒状態になると敵味方関係なく攻撃を仕掛ける。
これだから戦いたいわけだ。
僕と美崎が戦わないのは、プレイヤー同士は戦わないゲームデザインのため。
このまま村に行ったら大変な事になる。
僕は一旦、二人のサブクラス「闘神バーバリアン」のアクティブ状態をOFFにした。
勇ましくも獰猛なバーバリアンのリアルなグラフィックがグレーアウトする。
身体にあふれていたアドレナリンがスッと抜けた感じがした。
「ふぅー。気分がおちついたわ」
「僕もだよ。戦いたかったのは、闘神クラスまで上がってたからだったんだね」
「あっそっかぁ。それにしても、闘神クラスなんてすごくない。ねえ、わたしたちかなり強くなったよね」
「よしっ、レベルを見てみよう」
キャラクターのパラメーターを開いて見るとそこにはレベル8の文字。
「えぇーっ。たった8なの? わたしもっと強かったよ」
「うーん、変だね……。あっ! これを見て」
僕は画面を切り替えて、バーバリアンのレベルを表示させた。
そこには、レベル80の文字。
「ほとんどの経験値がバーバリアンに乗っちやったんだ」
合計レベル88はかなりの高さだけど、修道士、修道女としてはレベル8でたいしたことは無い。
「早いうちからバーバリアンが発動してたみたいだね」
「……。獲得アイテムはどうかしら。たくさんはいった?」
僕たちのゲームはアイテム自動回収だ。
しかも回収したアイテムはオプション画面から換金や、レベルに会わせたアイテムに交換可能。
まあ、会話スキルを上げて商人と交渉する方が有利だけれども。
「武器は棍棒とか剣とかあまりたいしたことは無いけれど。でも、オークの牙がたくさんだ♪ 換金すれば結構いい金額になるよ」
「やったね♪」
美崎は嬉しそうに立ち上がるとオプション画面に指を走らせた。
「ねぇ、これ見て」
と言ったとたん、今まで着ていたシンプルな修道服が、金糸、銀糸の刺繍で飾られた、立派な服に早変わり。
「服装チェンジしてみた。確定はしてないけど」
オプション画面の交換可能アイテムにいろいろ登録されている。気に入ったら他のアイテムと交換で装備品確定だ。
「あっ。わたしこれやってみたい」
美崎の姿がドワーフに変わる。
「えっ!」
「キャラクターチェンジ。ドワーフの修道女。レアキャラよ」
「レア、うぅーん、ちょっとこれは……、ミサに見えないよ」
「なんかとっても不満そうね、今は多様性の時代よ」
「多様性って」
「なんちゃって。ハルはこっちの方がお気に入りよね」
美崎の姿がエルフに変わる。
「どうっ、かわいい?」
と言って、腰をかがめると、わざとらしく僕の顔をのぞき込むように見上げてくる。
まあ、エルフの方が美崎に似合ってるよな。
「よしっ。だったら僕だって、ミサの好みになってあげるよ」
そう言うと僕は種族をパラパラ切り替えてイケメンキャラを見つけた。
デーモン(イケメン系)に変わる。
更に、高身長に変更っと、数値を入力した。あれ、サイズの単位は何だろう。
つって思った途端、グォンと一気に視界が急上昇。
自分の背の高さに目が回る。5メーターは有るぞ。転倒したら死にそうだ。
僕は急いで初期値ボタンを押す。
「キャ。何やってるの」
美崎は驚いてエルフの目をまん丸にしてた。
「ごめんごめん。驚かせちやったね」
僕も驚いたけど……。
「それにしても、キャラクターってかなり細かく設定出来るんだね」
「でしょ。黒光り先輩が、デヘデヘしながらわたしに提案してきたのよ」
「デヘデヘしながら提案って?」
「女性のプロポーションをかなり細かく調整出来るのよ」
「その提案に乗ったの!?」
「それがね、結構いいのよ。キャラクターの特徴を、きわだたせるのよ」
「際立たせるって、どういうこと?」
僕の疑問に、美崎がオプション画面を操作しながら説明をはじめた。
「例えば女性剣士の場合、体のラインを引き締めたいから、お尻の形はこんな風にキュト締まったフォルムで、位置は高めに。女性魔術師の場合は、筋力は弱めなんでこんな風に丸みを出して、少し下がった感じに」
美崎の説明に合わせて服の下でお尻がモコモコ動いてる。よく見えないけれど、かたちが変わっているんだろう。
「服の下だからわかりにくいよね。胸ならばわかりやすいよ。大きくしてみるね」
そう言って美崎は胸を張るようにして僕の正面に立つ。胸を見せつけたいのかな? なんて思ってると。
「キャッ! 小数点の位置を間違えたっ!!」
この時僕は、突然ひとかかえもある巨大な、服を着たスライムが2体、美崎にのしかかったと思った。が、違った。
「胸が重くて、胸が苦しい。ヒグウゥゥー」
美崎は自分の胸に押しつぶされていた。
僕は急いで自分のオプション画面をスライドさせて美崎の設定画面を出す。
美崎のキャラクターデザインのパラメーター初期値ボタンをオン!!
美崎の体が元に戻った。
「ハァハァ。わたし死ぬかと思った」
「ゲームの外で死んだら本当に死んじゃうかもだったね」
危ない、危ない。
「さあ、もう終わりにして元の姿にもどろうよ」
「そうね」
僕たちは種族をヒューマンに変更して初期値ボタンを押す。
僕たちの姿が外人に変わる。
「あれっ。元の姿、どこに有るんだろう」
僕たちは、キャラクター設定画面を隅々まで見回したが、自分たちの姿が無い。
「元にもどれないわ」
「僕たちってゲームのセーブをやってないよね」
姿を変える前にセーブしておけば、ロードして元に戻れるけれど、これまでセーブする必要がなくて、やってなかった。
いや、落ち着け、落ち着け。
「あっそうだ、オートセーブが有った。森から抜けたときにもセーブが起動したよ」
僕たちはゲームの保存データ管理画面に切り替えると、オートセーブの項目を表示した。
そこに書かれていたのは
「クラウドとのリンクが切れています。再接続して下さい」
の文字。
初期保存先はクラウドデータ保管庫だった。
ネットに繋がっていないから保存に失敗してる。
いやいや落ち着け落ち着け落ち着くんだ。
「保存先をローカル変更してみよう。そっちに保存されてるかも」
設定を変えて保存データーを見る。
「ノオォォォー。何もない」
僕は頭を抱えて叫び声を上げた。
「ハル。大丈夫よ。なんとでもなるわ」
美崎のそんな僕を落ち着かせようとする声が意識の外側でかすかに聞こえていた。
僕たちのクラブ室は校舎の2階に有ったんだ。そしてその丁度足元にある校舎の1階の部屋。そこが僕たちの学校のサーバールーム。
そこには仮想サーバーが設置されていて、クライアントPCのバーチャルデスクトップで僕たちの作っていたゲームとデーターは全てそのサーバーに保管させていたんだよ。バックアップデーターはクラウドに送ってね。
そしてそのサーバーを構築した管理者が吉田先生。エンジェル吉田先生って凄いよね。
海野 春海 談




