僕は戦わずして無双した
戦わずに勝つお話しです。
僕がオプション画面を閉じると、ムーブが発生した。
僕は美崎の左にピッタリと体を寄せて立つと右手を彼女の腰にギュッと回して引き寄せた。
「えっ!」「きゃっ❤」
ちょっと、これはくっつき過ぎじゃ……。
空いた左手で美崎の左手の甲を包むように握ると二人はその手を空高く掲げた。
「ルーメンの神よ。猛々しき魔物達の怒りを静めたまえ。かの者どもの真の姿を現したまえ」
「パパとママのなかよしムーブよ」
わが子が嬉しがって言う。
ホヮーンと優しい光がモンスターの集団に降り注ぎモンスター達の攻撃行動を消し去った。
目的を失ったモンスター達は動きを止めた。
そして、隣同士顔を見合わせる。
もの凄く仲の悪い者達が一箇所に押しこめられている状況だ。
モンスター達の時が一瞬凍りついた。
ムーブが終わった美崎が、わが子の後ろに回り込んで、素早く両手でわが子の両目を覆った。
「見ちゃだめよ」
美崎はこれから起きる惨劇を予想していたんだ。
次の瞬間、モンスターの大集団が、はじけた。
そう、弾けたと言うしか無い。狩る者と狩られる者。それらがひしめいているんだ。飛びかかる物と逃げ惑う筈の者。その強い力が集合体の中でひしめき合い弾けたっ!!
嘶きの様な叫びの様な吠え声の様なこの世の終焉を迎える程の轟音が天地を揺るがせる。
そう、奴等にとってこの世の終わりだ。
草食、肉食関係なく、弱い者は押し潰ぶされ、踏みつけられ、阿鼻叫喚の中でミンチになって行く。
喰われる草食、反撃を喰らって角で突き殺される肉食。そればかりではない。肉食と肉食で殺しあい、草食と草食で殺しあう。ゴチャゴチャの寄せ集め、どれもみな敵同士だ。
上空からは飛翔力を失ったモンスター達が無駄な足掻きで翼をバタバタさせながら落ちてくる。
落ちて地上のモンスター達の餌食になる者。巨体で地上のモンスター達を押し潰す者。着地したら自重を支えられず自らの重みで自身をおしつぶす者。
風船の様に空中で風に吹き流されて行くモンスター達もいる。
獲物を見つけたのだろうか、口から地上に向かって火を吹こうとしている。
「あっ! あんな体で火を噴いたら」
僕が言った途端、そんなモンスター達が一瞬炎に包まれた。そう、これは火に近づけた風船だ。
打ち上げ花火の燃えかすのように、地上に落ちて行った。
時間を置いて空の彼方から、ボンボンと破裂音が何度も聞こえてくる。
火を噴こうとして噴かなかった者達もいた。それらは体の中に熱をため込んだままの熱気球の様な物だ。どこまでも空高く上がって消えていった。
「あっ、大変。モンスター達がこっちに向かってくるわ」
パニック状態の、決して少なくないモンスターの集団が、こちらに向かって走り込んできた。
美崎がすかさずオプション画面にした。
「木の塀じゃ破られちゃうわ」
「だったら、もっと丈夫な建設素材に変えようよ」
建材は木材以外にも色々あった。
「そうねえ。土とか石とか……。大きな石を積み上げるのがいいかもね」
「それで行ってみようか」
「ただ、積み上げた石は、いっかしょ破られると大きく崩れちゃうのよね」
「かなり大型のモンスターもまじってるものね……」
それでも幸い、飛行タイプは結局の所、一つもまともに飛べていない。なので、今は塀の破壊を防ぐだけだ。
「ねえママ。じょうぶになるの作ればいいの?」
わが子が聞いてきた。
「そうよ。フィニットちゃん。作ってくれるの」
「うん♪」
愛娘が嬉しそうに返事をすると、開発画面が起動して町デザイン用ツールが現れた。塀作成用の素材に一種類追加された。
「鉄筋コンクリート!!!」「それも鉄骨入りだわ……」
僕達は顔を見合わせた。
「フィニットちゃんすごいわ。あとはパパとママにまかせて」
僕達は話し合いながら塀の作成に取りかかった。
高さは約三十メートル。どんな大型モンスターでも飛び越えられない。分厚い鉄筋鉄骨入りコンクリート製で強度は大きなダムに匹敵する。
壁面は滑らかで景観に溶け込むライトグレー。表面は高強度のシリコン樹脂でコーティングされている。
その光沢のある壁面は、もはや現代のビルを彷彿とさせる物だった。
「よしっ。完成だ⤴ 稼働させよう」
僕達はオプション画面を閉じた。
また僕達二人のムーブが発動した。
僕は美崎の後ろにピッタリと立つと、両腕で美崎の肩を抱きしめた。
「きゃっ❤」「うぁっ」
さっきよりも密着度が爆上がりだ!
そのまま僕は右手で美崎の左手を取ると、美崎は僕の胸の前でくるりとターン。
これってもしかしてダンスターン!?
再び僕は美崎の背中を胸の前で抱え込む体勢から彼女の右手を僕の右手で包み込み、その手を天高く掲げた。
「ルーメンの神よ、この平和なる町に強固な守りをお与え下さい」
木の塀が光に包まれ設計通りの巨壁が現れた。圧倒的な出来栄えだ。
「うぁぁぁー、なんだコレはぁぁっっ!?」
塀の上で見張っていた衛兵達。突然上空に持ち上げられて、驚きの声を上げた。
驚かせてごめん。僕は心の中で謝った。
「くるわ」「来るね」
モンスター達が壁に激突した。しかし壁はびくともしない。
美崎がすかさず、また両手でわが子の両目を覆う。
モンスター達に対して今やこの壁は凶器そのものだ。
激突死。そう、激突死だ。そればかりでは無い。壁に阻まれたモンスター達の後ろから更にモンスター達が押し寄せて、押し潰す。圧迫死。
モンスター達の肉塊の上に更に肉塊となるモンスター達が乗り上げる。
壁を避ける事の出来たモンスター達は、散り散りになって何処かに走り去って行った。
騒音が消え去った。辺りが静寂に包まれる。
………。
「勝ったぞ。勝った、勝った。勝ったんだー」
しばらくして、塀の上の衛兵達が叫んだ。
その声と共に、町に喜びの渦が巻き起こる。叫びあって抱き合う人たち。
ただただ嬉しくて号泣する人たち。
とにかくみんな大喜びだった。
そう、僕達は勝ったんだ。戦うこと無く。
僕達は戦わずに無双したんだ。
ある日の美崎とインフィニティの会話。
「フィニットちゃんって、もしかしたらチャットAIPなの?」
「うぅん。違うよ。でもチャットちゃんとなかよしなの。いつもいっしょにおはなししてるよ」
「まあ、フィニットちゃんってお利口さんね❤」
ギュッ❤




