表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

不信と真実の間に

通学路を自転車で走る。


いつもより人が少ない。

開いているはずの店も閉まっていて、街全体がどこか沈んだ空気に包まれていた。


「……やっぱ、事件のせいかな」


ミオの失踪に続き、レンに告白した女子までもが姿を消した。

町は一気に緊張に包まれていた。


「ユリカ、今日は校外に怪しい動きがないか見てくる。万が一何かあったら、これを使え」


クロウがそう言うと、私の手の甲に黒い紋章が浮かび上がった。


「これ……?」


「契約の紋章だ。普通の人間には見えない。念じれば、離れていても俺と通じ合える」


私は小さく頷いた。


……もう私は“普通の人間”じゃないってことか。


「わかった。何かあったら呼ぶね」


クロウは満足げに微笑むと、ふっと空気に溶けるように姿を消した。


学校に着くと、教室内も異様な静けさに包まれていた。


生徒たちはヒソヒソと話している。


「レンが、最後にあの子と話してたって……」

「二人ともいなくなるなんて、偶然にしては出来すぎてるよね……?」


私は俯いたまま、自分の席についた。


──レンが疑われてるんだ。


しばらくしてもホームルームは始まらず、代わりに無機質な放送が鳴り響いた。


『全校生徒は速やかに体育館へ集合してください。繰り返します──』


体育館では、異例の全校集会が始まった。


「本校から二名の生徒が失踪したことを重く受け止め、当面の間、休校とします」


生徒たちが、ザワザワと騒ぐ。


「静粛に!不要不急の外出は避け、一人での行動は絶対に控えるように。現在も安否確認が続いています」


校長の声は硬く、どこか怯えているようにも聞こえた。


まるで、日常が急に“裏返った”ような感覚。


私たちは今、確かに“事件の中”にいる。


短いホームルームを終えて直ぐに下校になった。


……クロウに報告しなきゃ。


私は手の甲の紋章をそっと撫でながら念じた。


『クロウ、聞こえる?』

『ああ、どうした?』

『しばらく休校になるって。そっちは?』

『特に何もないが、少し調べたい事が……』


そのとき──


「沢城、ちょっと話せるか」


背後から声をかけられ、振り返るとそこにはレンがいた。


その表情は、どこか沈んでいる。


「……俺じゃない。あの子のことも、そもそも付き合ってねえし!…その、俺は知らない。」


私は、何も言えなかった。

信じたい。

でも、昨日、二人が一緒にいるのを確かに見た。


私……レンのこと、本当に信じていいの?

心のどこかで疑ってる自分もいる。


そのとき、頭に鋭い痛みが走った。


「……っ!」


視界が歪み、遠い記憶が蘇る。


──あの日。交通事故で、私は死にかけた。


そして、あのとき──


……銀の髪。赤い瞳。黒いローブ。

あれって、やっぱり……クロウ……?


「沢城っ!」


レンの声が響いた直後、もうひとつの声が重なる。


「大丈夫か、沢城くん!」


香月先生が駆け寄り、私の身体を支えてくれた。


「今日は無理するな。送っていくよ」


頭痛のせいで意識が朦朧とする中、私は香月先生の車に乗せられた。


けれど、胸の奥に不安が広がっていた。

──あれがクロウなら、なぜ、クロウは釜を振り下ろさなかったの?


「沢城くん、大丈夫か?」


車内の先生は、いつもと同じように優しかった。

でも、どこか違和感があった。


「沢城くんは、いい生徒だよな。

家族思いで友達思いで…。ずっと見てたんだよ。」


「……え?」


「なあ、お母さんを心配させたくないだろ?……凄くいい場所に連れていくよ。

少しだけ寄り道しよう。」


「え……?ちょっと、先生?」


胸のざわつきが、確信に変わる。


──これは、おかしい。


『……助けて、クロウ!!』



その頃ーー


クロウは、死神にのみ許された“死のノート”を手にしていた。


パラ、とページがめくれたその瞬間。

黒いインクのようなものが滲み、ひとつの名前が浮かび上がる。


『沢城ユリカ』 


「……なに?」


赤い瞳が細められる。


「なぜ、ユリカが……!」


クロウはすぐさま彼女の元へ向かおうとする。

だが──


「……ッ、追えない……?」


強制的に、空間から“引き離された”。


「……ユリカ!!!」


叫びは届かない。


空は、もう夕暮れの色に染まりはじめていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ