村上沙織、寿子坂本
怖い。
私が出会う人は誰も安全ではない。そのうちの誰かが私に恋をして、私の落ち着かない心を引きずりながら死んでしまうだろう。
どうしたらいいのかわからない。誰に話せばいいのかわからない。
「村上沙織」は今の私だ。私は私より前にいた女の子たちとはまったく違う…私は壊れてしまった。どんな魅力も楽観主義も、ずっと前に絶望と不安に溶け込んでしまった。
少なくともこうすれば、私は誰とも関わらないだろう-
「あぁ…」
「うわぁ…」
典型的な出会い。気づかない二人がぶつかり合い、目を合わせ、すぐにお互いに興味を持つ。
まあ、この場合…
「ごめんなさい、もう二度と迷惑をかけません、誓います!」
「ちょっと待って」
何も考えず、床に落ちているものを全部掴んで、学校に突進した。
その時は女の子が何も言わなかったが、きっとこんな風に思ったのだろう。
「あ、小説を取られた」
授業が終わってから、私は自分のミスに気づき、ぶつかった謎の女の子を探さなければならなかった。
彼女を見つけた時には、すでにみんなが学校から出て行っていた。
「ごめん、あなたの小説だよ!嫌いにならないで!」
「ふぅ…はは!あなたは本当に面白いのよ、知ってる?」
「まあ、それだけなら、私は・・・」
「ちょっと待って!」
女の子は驚くほどの力で私の腕を掴んだ。
「私がどんなものを書くのか、気にならないの?」
「お願い、行かせて。迷惑かけたくないから」
「早く帰りたがって迷惑かけとるからな~。さあ、座って私の小説を読んで。読まなきゃ一生迷惑かけるぞ!」
…そうして、バカみたいに彼女の小説を読み始めた。
傑作というわけではないが、楽しく読めた。みんなが幸せに暮らす典型的な恋愛小説。
「で、どうだった?」
「えっと…なかなかいいよ!自分で書いたなんてすごいね~」
「嘘つかないで。辛口の批評を聞かせて」
「それは…ごめんなさい~」
「シーッ。ひどいよね?ありきたりで無難なありきたりの恋愛小説でしょ?」 「確かに基本だけど」
「は、やっぱり。被写体が全然面白くないから…どこにでもいる典型的な主人公たちだから。でも、私にはぴったりのプランがあるのよ~」
「え?」
「偏執狂ちゃん、面白いね。いい被写体になると思う。でも、無理やりデートさせて、それを私が見るなんて倫理的によくないと思うから…付き合ってるフリをしようか?」
「な、何!? ダメ!」
「はは、その反応を見ると、むさぼり食いたくなるわ~。それに、選択肢なんてないでしょ?だって、否定しようとしても、あなたが堕落するまでずっとラブラブしてあげるから~」
「…私の名前も知らないのね…」
「あぁ、そんなつまらないことなんて誰が気にするの?でも、そうね。私の名前は寿子坂本。では、あなたの偏執狂ちゃんは?」
「……村上沙織。」
「うーん、つまらない。偏執狂ちゃんって呼ぶことにするわ。」
……こうして私の三回目のループが始まった。
彼女は確かに風変わりな人だった。でも、それが全く魅力がないわけではなかった。
彼女は山ちゃんや彩ちゃんとは程遠い。彼女は何にも遠慮せず、私が常識から外れすぎていると怒鳴っても、彼女と一緒にいるのは本当に楽しかった。
実際、これが普通の話だったら、私は以前の自分に戻っていただろう。
でも、これは普通の話じゃない。
「ねえ、偏執狂ちゃん……読者はこういう瞬間を読みたいと思ってると思う?」
「ん?どういうこと?」
「だって、私の傑作小説のために、私たちの偽りの関係でたくさんの素晴らしい瞬間を味わったことがあるんだもの。きっともうすぐ正式な出版のオファーが来るよ。」
「それは素晴らしい…たとえ報酬がなくても…」
「はは、実際にお金を稼げるようになったら報酬について話し合おう。でも話がそれた。偏執狂ちゃん、恋愛小説のどんなところが面白いと思う?」
「私は…あまり考えたことがない。多分キャラクターかな?」
「ええ、もちろんキャラクターは大事。ファンサービスも大事だし、その根底にある人間関係のドラマも大事。でも今のようにただおしゃべりして、何も重要なことをしていない瞬間…人々はそれを読みたいと思うと思う?」
「…そう思う。ドラマや絶え間ない誤解から…一休みするのはいいと思う…」
「そうなの…?偏執狂ちゃんは恋愛経験が豊富だね~」
その言葉に私は身震いした。何かがおかしいと感じたのか、彼女は私の肩に腕を回した。
「…ごめん。かなり失礼だった。」
「い、いや、あなたのせいじゃないよ…」
「…なあ、質問があるんだ。」
「ん?」
「…本気で付き合ってみる?」
「…」
「だって、私の小説の参考になるのもいいし、偏執狂ちゃんが美人の彼女に変身するのも魅力的じゃない?」
痛い。
どうしてこんなことが僕に起こるんだろう?
この結末はわかっているのに、どうして…
どうしてノーと言えないんだろう?
どうして僕の本能は僕にさらなる苦痛を与えようとするんだろう?
「…僕は…」
「あ…今、とんでもないことを言ってしまった。ごめん、冗談にしよう、それだけにしよう。」
寿子さんは目をそらす。彼女はひどい嘘つきだ。
…いや。やめて。
どうして僕の声はそんな言葉を発しそうになっているんだろう…
僕たち二人をさらに苦しめるだけのひどい言葉…
それとも、僕はただ…
僕はただ、彼女たちの最期の瞬間に少しでも安らぎを与えたいだけなんだ。
痛くてもいい。僕はたった一人だし、彼女たちが消えたら僕も消える。
たとえ自分の幸せを犠牲にしても、彼女たちの願いを叶えたい。
なぜなら…
「わかった。いいネタが手に入るといいですね。」
なんとなく、藤ちゃんは残っていた。
「あぁ…今この感情…私、私一人では想像もできなかった…」
「えっと、偏執狂ちゃんは今誰ですか~」
「はは、私もこんな展開は予想していませんでした…ありがとうございます。本当に。」
…結局、小説は出版されました。漫画化やアニメ化も検討中とのこと。私はずっと、これから起こることをわかって、ただ微笑んでうなずいていました。
今回は、私が主導権を握ろうと決めました。もう、騙されない。
「ふう、ようやく最終段階に入った。村上ちゃん、ありがとう。」
「…現実とは違う結末を考えることは考えましたか?」
「うーん?でも、私たちの関係はもうかなりずれているわ…もっと誇張したいって言ってるの?」
「そうしなきゃいけないって言ってるわけじゃないわ。考えたことあるのかしらってだけ。」
彼女は少し考え、ペンを顎に当てた。外では雷がゴロゴロ鳴って、彼女の動きが際立っていた。
「…もちろん、いつかは小説を終わらせなきゃいけないし、『幸せな日々はこれからも続く』なんて言い訳はしないから、今とはかなり違うわ。私たちの愛は小説みたいに終わるわけじゃないし、もっと長く続くはずよ~」
「死について考えたことある?」
さらに長い沈黙。激しい雨が窓を叩いた。
「えっと、そういう設定にするのはちょっと遅すぎます。伏線も何もなく主人公がいきなり殺されるような話なんて誰も読みたくないでしょう」
「現実は残酷なものですよね? 命は気まぐれで救われたり失われたりします。トランプに当たったり、階段から落ちたり、突然の病気になったり」
「何を言ってるんですか? つまり、それが「現実的」だからというだけで、登場人物の一人を殺せばいいってことですか? 小説は幻想的で教訓を与えてくれるから楽しいのであって、現実のルールに厳密に従っているから楽しいのではありません」
「あなた、死んじゃうんですよね?」
「な、何言ってるの?なんで私に話が移ったの、小説の話じゃないの?」
「私に嘘をつく必要はない。わかってるから、否定し続けるのは無駄よ。」
「証拠もないのに、私が嘘をついていると責めるの?どうしたの?」
「証拠なんていらない。私が知っているのは、こういうことが起こるたびに、私の愛する人が死ぬということだけ。」
「落ち着いて、村上ちゃん、お願い、誓って、私は完全に健康よ」
「私は誰も救えない…毎回、最後まで、彼らは私に嘘をつき続ける、彼らがいなくても大丈夫、私が簡単なことをいくつかすれば彼らは幸せになれると…でも、それはいつも嘘、嘘、嘘!!!」
私は彼女の「嘘」を聞くために留まりませんでした。降りしきる雨の中、私はできる限り遠くまで逃げた。
夜の闇と、雨の刺すような痛みと目に浮かぶ涙の中で、何も見えなかった。
私が守ろうとしていたものそのものになるまで、何も見えなかった。
その瞬間、私は後悔と恐怖の集大成に目がくらんだ。真の闇に突き落とされる前に最後に聞いたのは、クラクションの音だった。
…次に目が覚めたとき、白い天井が私の目をほとんど覆い隠した。
腕にチューブがつながれていた。部屋は不気味なほど静かだった。
動くのが痛い…いや、存在するのが痛い。
どれくらいの時間が経ったか分からないうちに、見慣れた女の子が部屋に入ってきた。
「…は。君の言う通りだった。本当に突然、そういうことが起こるんだ。」
「…」
話すのが辛い。
「君がいない間に、小説を…書き終えたんだ。頼まれた通りにしました…結末が現実とかなりかけ離れていることを確認しました。」
「…」
私は話したかった。
「ごめんなさい…心配していただけだったのですね。声を荒らげるべきではなかったです…結局、ハッピーエンドだったかもしれません。」
「…」
お願い…私の体…
「小説…ヒットするって…確定したよ…日本中、海外にも…」
「…」
動いて…お願い…
「私…怖い…このまま終わりたくない…書き続けたい…でもあなたがいないと…私は…駄作を作り続けるだけだと思う…初めて会った日に見たあの小説みたいに…」
「…私…」
「喋らないで…もっと傷つくだけ…」
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…坂本ちゃん…」
「あぁ…謝らないで…全部私のせい…全部私のせい…」
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
誰もいない部屋で誰にも言わずに呟きながら、私の「村上沙織」としての人生は終わった。
私は坂本ちゃんの小説の結末を読むことができなかったが、『偏執狂ちゃん』の方が私の結末よりハッピーエンドだったと確信している。
読んでくれてありがとう。
時には失敗から学び、時には挫折する。
おやすみなさい、さようなら。