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エピローグ~アルテルの図書館塔~

 ◆


 最大級の都市国家アルテルの若き王子は、今日も体調がすぐれなかった。

 どんよりした表情のままやってきたのは、魔術師であり賢者であり予言者である智恵の権化、魔術師リルカの住む図書館の塔である。


「はぁ……」

「お疲れですねぇ」

「まあな、魔王さえ倒せばどうにかなるという単純な希望があった時代がうらやましいよ」


 今の時代を生きる人間たちは、瘴気に汚染された生活への対応で頭の痛い日々を送っている。先行きの見えない問題は、心も体も疲弊させる。

 魔王を撃破したのちに、「ひとつ功績をなしとげた者が、いつまでも大きい顔をしているべきではない」といって身を隠してしまったかつての英雄たちがいれば……と何度考えたかわからない。


「何か景気のいい話はないのか?」

「そうですね。まあ、与太話ですが……大精霊オリンピアとかの英雄グラナダスが育てた男を、トワノライト隆興の立役者ピーター卿が教育しているとか」

「……ぷっ」

「しかも、魔王時代を生き延びた魔獣の王フェンリルを従えているとか、いないとか!」


 従者の冗談に、アルテルの王子はやっと笑った。


「面白い話だが、少々話を盛りすぎだな」

「ですよねぇ、あはは! 先日酒場で一緒になった、トワノライトから流れてきたとかいうミュゼオンの聖女崩れから聞いた話なんですが……吟遊詩人か何かを目指してるのかもしれないですね」

「どちらにせよ、話をでかくしすぎだ。ふふ、ははは!」

「色々と情報網を持っているとか、元は学者の一族の出だとか色々言ってましたけど……あでる? あべる、って言ったかな。変な女ですよ」

「なるほどな。はー、笑わせてもらった」


 図書館の塔、その最奥部に住む魔術師は扉を一枚隔てた向こう側にいる。

 気難しくて偏屈で、人嫌い。

 そんな魔女と対するのは、それなりのストレスだ。

 国として重要な相談があっての訪問を、「なんで来た」だの「邪魔だ」だの酷い言われようでなじられ、悪くすると追い返される。

 ……だが、今日は様子が違った。

 扉を開くと、魔導師リルカは満面の笑みを浮かべていた。


「やあ、やあ! 王立学院の魔術学科に特待生を招聘してほしいのじゃが」


 開口一番にまくしたて、リルカは推薦状をぺらりと王子に見せつけた。

 ──ユウキ・カンザキ。

 そこには、聞いたこともない名が書いてあった。


「……誰?」


 王立学院の特待生といえば、すでにめざましい功績をあげていて、親族や縁者にアルテルあるいはこの世界そのものに多大な貢献をした者くらいしか招聘できないのだ。

 どこの馬の骨ともわからない者を特待生に、などリルカといえども無理難題ではないだろうか。


「失礼ですが、リルカ様。一体どこの出身の者でしょうか。生まれでも、育ちでもよいですが……」


「ん? 難しい問いだな、本質は旅人だし。だが……」


 王子の問いに、リルカは機嫌を損ねることもなく楽しげだ。

 世界最高の魔術師は、にんまりと笑った。


「……山奥育ち、とでも言っておこうかな」


【完】

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