7話 お人好し
翌日、俺は9時から12時まで善行を積むことにした。
なぜこの時間帯なのかと言うと、明日まで進路面談があり、学校のヤツらは昼には帰ってくるのである。
とどのつまり、ソイツらと鉢合わせないようにするためという訳だ。
しかし、ソイツらでなくとも、居てほしくないヤツに限って居るもので――。
「……ところで、なんで一緒に歩いているわけ? 姉さん」
俺は、何とは無しに隣で歩いている姉さんに問う。
「え? だって、今日の大学は午後からだもん」
「いや、そうじゃなくて……なんで一緒にゴミ拾いをしに来たのか聞いてんだよ」
「家にいても暇だから?」
「なんで疑問形なんだよ。因みにバイトは?」
「今日はシフト入ってないから、完全フリーだよ」
「マジかよ……」
俺は思わずため息を吐く。別に姉さんのことが嫌いという訳ではない。この歳で姉弟揃ってゴミ拾いをするということに、小っ恥ずかしさを感じるからである。
しかし、俺の心情を知る由も無い姉さんは、こんな事を口にする。
「まあ暇だからっていうのもあるけど、一番はあんたが普段どういう風に歩き回っているのか気になったからよ」
そんなに俺の日頃の行いに不安な要素があるのだろうか……?
「別に、悪さをしに出掛けてる訳じゃねえんだから、そこまで気にしなくてもなあ」
「悪さを気にしてるんじゃなくて、善さを気にしてるの。あんたが王子様になった時から、私はあんたを誇らしく思ってるんだから」
「イジってるの間違いじゃねえのか?」
「そんなことないよ?」
「どうだか」
本当にマイペースで自由奔放な姉である。
対して俺は面倒臭がりで素行不良者だ。
――姉弟でこんなにも性格が違うのは、普通の事なのだろうか……?
そんな疑問を抱いていると、姉さんは何かに気づいた様子で俺に話しかける。
「ねえ、あそこにいるおばあちゃん、何だか重そうだね」
姉さんが指す方を見ると、そこには両手いっぱいに荷物を持ったお婆さんがいた。
「両手いっぱいに荷物って……近くでバーゲンでもあったんじゃねえか?」
「何にしても大変そうだし、手伝ってくる!」
俺の言葉を待たずして、姉さんはお婆さんの元へ走って行った。
「ったく、人の善さが気になるとか言っておきながら、自分が善いことしてんじゃねえか」
これは姉さんの性格に"お人好し"も追加だなと思った。そして、俺は足元の吸い殻を拾い上げて、ゆっくりと姉さんの後を追ったのだった。
「……ほう、あのあんちゃん……」
★―★―★
正午頃、俺たちは帰宅した。結局あの後、姉さんはお婆さんを自宅まで送り届けた。因みに、ちゃっかりとお礼の大福まで頂いたらしい。
ところで、姉さんを見てふと思ったのだが、助けた人から直接にお礼を貰った場合、貯金箱にお金は貯まるのだろうか?
今回は俺が直接手を差し伸べた訳ではないので分からないが、もしお礼プラスで貯まるのなら、あまりにも得である。
しかし、辛口なコイツのことだ。お礼を貰えたなら、それが貯金額の代わりだと見なすかもしれない。
お礼の内容が、本来貯まるはずの額よりも高ければ得だが、それよりも低ければ損である。
――いずれにせよ、今後自分の目で確かめる必要がありそうだな。
そう心に決めた俺は、昼飯用のカップ焼きそばを作るために立ち上がった――その時だった。
――ピンポーン
と、インターホンが鳴り響いた。
「姉さん行ってくれるか? 俺、焼きそば作りたいんだが」
姉さんはお礼に貰った大福を頬張りながら応える。
「ふぃまふぁいふふふぇふぃほふぁふぃーほ」
「何言ってんのか分かんねえよ。もう俺が出るわ」
とりあえず、行けない意志を示してはいるんだろうと汲み取った俺は、仕方なく玄関に向かう。
そして、ドアに手を掛けた。
「はい、どちらさんだ?」
ドアを開けると、俺は思わず目を見開いた。
何故ならそこに居たのは――。
「あ、御堂君。こんにちは、昨日はありがとうございました」
昨日俺が助けた少女――浦上凪沙だったからだ。
お読みいただきありがとうございました。
それにしても、大和君と舞香さんってなんだかんだ仲良いですよね。舞香さんがボケ、大和君がツッコミって感じで成立している気がします(笑)。
そして、「あんちゃん」と呼ぶ謎の男であったり、突然大和の家にやって来た浦上さんであったりと、今後も大和君から目が離せないですね。
それでは次回もまたよろしくお願いします(→ω←)