6話 心配と変化
その後、俺たちは無事に帰宅した。その頃にはもう既に、陽が沈みかけていた。
因みに、面談については次回にまとめて行うという。それもまた一番最後に――だ。
それはさておき、俺がリビングに入るや否や、姉さんが慌てた様子で近づいて来た。
「お帰り、大和今日大丈夫だった!?」
「何の話かは知らねぇけど大丈夫だよ」
「そう、なら安心したよ」
「いや、何の話か教えろよ」
俺はソファに腰を落ち着けながらツッコむ。
一方で姉さんは一人ホッと息を吐いた後、そのワケを説明した。
「実はね、この辺りで窃盗事件が相次いでいるっていうニュースがあったんだよね。それで、ソイツはナイフとかも所持しているらしいから、万が一大和が遭遇していたら……なんて思うと不安になっちゃって」
どうやら姉さんは俺の事を本気で心配していたらしい。
正直、その気持ちは嬉しかった。だが、そんな事を直接言えるはずもなく。
「心配しすぎだ。俺は大丈夫だから気にしなくていい。それに、今日はたまたま学校に行く用があっただけで、普段はそう外に出る事はねぇからな」
俺は照れ隠しをしつつも、姉さんを安心させようとした。しかし。
「……でも、大和最近ゴミ拾いに出て行くじゃん」
姉さんは目線を下に落としながらそう言った。
言われてみればそうだ。
「そりゃそうだけどよ……」
完全に忘れていた俺は返答に困ってしまう。
暫くの間、静寂がリビングを包み込んだ。やがて、この空気感にいたたまれなくなった俺は、一人ソファから立ち上がろうとした――その時だった。
ゴンッという鈍い音がしたと同時に、ガチャンと何が落ちる音がした。
その様子を見た姉さんは心配そうに俺に尋ねる。
「……大和、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
そう、俺は立ち上がろうとして机に膝をぶつけて、さらにその弾みで豚の貯金箱が床に落ちたのだ。
姉さんは俺の言葉を聞いた後、貯金箱を拾い上げる。
だがその瞬間、姉さんが目を見開いて固まってしまった。
「どうしたんだ、姉さん?」
「……ちょっと、これ……見てみて。」
「……ん?」
言われた通り、俺は豚の腹部を見てみる。
そこには"5510"とあった。
桁が一つ増えている。
俺は思わず目を見開いてしまう。
「あんた……今日、どんな善行を積んだの?」
「いや、特には――」
と言いかけたが、一つ思い当たる節があった。
「いや、あったな」
「何をしたの?」
そう聞かれて俺は、浦上凪沙と名乗る少女を助けたことを話した――。
★―★―★
「――って感じだな」
「待って、イケメンすぎない!?」
「なんでそうなった」
「そりゃあ、ピンチの中助けに来てくれる男とか、女の子からしたら王子様みたいなもんだよ」
「少女漫画に影響されすぎなんじゃねえの?」
「まったく、分かってないなあ。でも、咄嗟にそういう行動ができるんだ。我が弟ながら流石だよ」
「それはどうも」
どうやらいつの間にか、姉さんのテンションは元に戻っていた。
「それにしても、階段から落ちて心臓がドキドキしたと思ったら、王子様が颯爽と助けに来るなんて……別の意味でドキドキしちゃうなー!」
そう言いながら、姉さんは独りでキャッキャと騒いでいる。
俺は女心を理解することはできない。だが、褒められているなら気分は悪くないと思った。
その後、俺は夕飯やら風呂やらを済ませて布団に入った。そして、今日という一日を省みた。
――あの少女を助けたおかげで5000円も貯まったんだな……世の中何が起こるか分かんねぇな。
俺がそう思ったその時、ふとあることに気づく。
――待てよ? ゴミ拾いみてえな間接的な善行よりも、あの少女みてえに直接助けた方が何十倍もお金が増えるんじゃねえのか……? もしそうだとしたら、直接誰かを助けつつ合間に簡単な善行を積めば効率良く貯まるんじゃねえのか?
それに気づいた俺は、心の中が波打った。
そして、俺の心はだんだんと軽快なステップを奏で始めた。
学校に行くことすら面倒くさがっていた俺は、いつの間にか、効率的に善行を積む方法を考えるまでに変わっていたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
早くも大和君の考え方が変化してきましたね。
今後、大和君はどのように行動していくようになるのか?
それでは次回もまたよろしくお願いします(→ω←)